ラスト・ミッション

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ラスト・ミッション

薄暗くなってきた夕空を眺めながら、夫と海辺をラスト・ドライブ。思い出の海原はやけにキラキラしていて、煌めいた二人の映像を思い出させて吐き気を催した。夫は流れてくるメロディーに合わせて掠れた口笛を吹く。 まさかの〝SAY YES〟。二人の思い出の曲。 外れたメロディーを横目に、空にはうっすらと七色の虹が掛かっている。雨も降っていないのにだ。私のラスト・ミッションを祝福しているのか? それとも、夫の奇跡が起こした絶景なのか? 分からない。夫はぐっと飲んだファンタ(グレープ)にむせ込んでいる。その咳が一生止まらなくなれば、すぐに計画終了となるのにな。   「ここまで来たら、あそこだな」 「そうね、連れて行ってくれる?」 「もちろん!」 そんな以心伝心さえ、気持ちが悪い。 ぐるぐると山道を登っていくと、段々と空が黒みを帯びていき、星屑が顔を出して来た。ラスト・ミッションまでのカウントダウンが脳内で始まる。隣の夫は、ロックに合わせて脳みそを揺らす。揺らす。もっと揺らすがいい。 頂上に到着すると、私たちを待っていたのは上からと前方からの美しい絶景だった。頭上には満天の星たち。目の前には煌めくジオラマ夜景。 死ぬ前に見れて良かったな、夫。 そんな夫は、絶壁に向って歩み寄り下を覗き込んでいる。あまりにも無防備すぎて笑ってしまう。 「ねぇ!ねぇ!あそこに光ってるのってキノコかなぁ?」 ラスト・ミッション実行の時が訪れた。夫の無邪気な背中にジリジリと近付いていく。両手を伸ばす。足を一歩、一歩、気付かれない様に近付けていく。鼓動が早くなり、伸ばした手がカタカタ震え出す。 これで、本当に、暗殺計画が終わる。 お前の命が終わりを告げる。 ジリジリ…… ここまで本当にお世話になりました、と言え。 浮気をして申し訳ありませんでした、と懺悔しろ。    夫を突き落とすまで後、3センチ…… 「うわぁぁ〜!!アリ、アリだ!!ケダモノ!!」 突然、右横に飛び逃げる夫。 え? 突き落とそうとする私の体は止まらない。 そのまま、絶壁へと向かっていく。 え? う、うそ? 「美香ーーー!!!」 大きな手のひらが腕を掴み、強い力で引き戻されるのと同時に、大きな影が前から消えた。 夫が私を助けて落ちた。 真っ逆さまに落ちていった。 「美香、おめでとう!」 「お前と結婚できて幸せだったよ」 「来世でも、また夫婦になろうな!な!」 段々と小さくなっていく夫の声。 余裕あるな、死ぬのに。 最後の最後まで嘘ばかり呟きやがって。 最後にそんな事言われてもトキメかない。 鈍い音が聞こえると、崖から身を乗り出し夫の死亡を確認した。 時計を見る。19時37分。 ミッション終了だ。 脳みそがそう言うと私は星空の下、ガッツポーズを決めた。 〝夫暗殺計画〟 だいぶ遠回りをしたけれど、無事に計画終了! さぁ、帰ろう。そう思って振り返ると、何かが落ちているのを発見する。リボンが掛かった水色の箱。私はそれを勢いよく破って中身を開けた。 キノコ型のシルバーネックレス。 ハラリ、と落ちたカードに目を通す。 〝美香、結婚記念日おめでとう!お前にプレゼントだ。どんなんがいいのか分からないから、おかまのママに一緒に買いに行ってもらったんだ。喜んでくれるといいな。これからも仲良くして行こうな。末長くよろしく!〟 何だ、これ…… 何だ、このオチ。    私の勘違い? おかまのママ? そんなん知らねー。 私は後悔の雄叫びをあげながら……    その場に崩れ落ちたのだった。 〜完〜
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