第弐幕 東京絵巻

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第弐幕 東京絵巻

東京進出 御子柴聖 十七歳 高速道路を乗り継ぎ、京都から東京に向かっていた。 車の窓から流れる風景を、黙って見つめていた。 外に出て、学校に通うのは初めてだな…。 御子柴家に居た時は、屋敷に家庭教師が来て、あたしに授業をしてくれた。 学校に行かなくても良かった。 だけど、あたしは普通の生活がしたかった。 キラッ。 蓮の耳に付けられたピアスを見て、ふと昔の事を思い出した。 まだ、御子柴家に隔離されていた頃、反発心で耳に穴を開けた。 ブチッ。 細い針で耳に穴を幾つも開け、任務帰りに買ったピアスを装着した。 耳の痛さとは裏腹に、別の事を考えていた。 御子柴家の人達は、あたしが何を買ったのかも興味は無い。 ただ、妖を滅してくれれば良いのだから。 鏡に映るピアスを見ても、何も感じなかった。 だけど、この頃のあたしは…。 このピアスを見たら…。 「御子柴家の人間として、相応しく無い。」 そう言って、部屋から出してくれると思った。 だけど、お婆様や両親に使用人は何も言わなかった。 どうやら、仕事をしてくれるのなら見た目は、何でも良いんだなと思った。 誰も、あたしが穴を沢山開けても、何も言わない。 誰も、あたしの為に怒ってくれない。 蓮はピアスを見て怒った。 「お嬢!!何してるんですか!?」 いつものように、針で耳を刺そうとしていた。 耳を開けようとした所を、蓮に見られてしまった。 大きな声を出しながら、あたしの手から針を取り上げた。 髪を掻き分けられ、蓮にピアスの付いた耳を見られた。 「お嬢…。もうピアス開けるのは、やめて下さい。」 蓮が傷付いた訳じゃないのに…。 どうして、そんな悲しい顔をするの? あたしは、コクッと頷きながら返事をした。 「う、うん。」 「僕も同じの開けます。」 「え?」 ブチッ。 そう言って、蓮は自分の耳に針を指した。 「蓮!?何してるの!?」 あたしは慌てて、蓮に駆け寄った。 蓮の耳からは、血がポタポタと垂れている。 「何で、こんな事…っ。」 「これで、お揃いですよ。」 「お揃いって…。蓮はそんな事、しなくて良いのに。」 「僕の気持ち、少しは分かりました?もう、ピアスは開けないで下さい。」 蓮は満面の笑みを浮かべた。 本当に目の前で、ピアスを開けるとは思ってなかった。 蓮だけだな…、怒ってくれたの。 1週間後ー 蓮の耳を見たら、同じ場所にピアスが開いていた。 しかも、同じ数…。   蓮は何処まで、あたしと居てくれるんだろう。 チラッと、横にいる蓮を見つめた。 カタカタカタカタ…。 パソコンを使って、調べ物をしていた。 不本意だけど、一緒に東京に出られて良かったと思っている。   パチッ。 「ん?お嬢、どうかしました?」 不意に蓮と目が合ってしまった。 「!!な、何でもない!!」 「聖様、蓮様。もうじき、東京に到着致します。」   運転手が、あたし達に話し掛けて来た。   高速道路を降りると、そこには京都の風景とは違った。   窓の外を見ると、人で溢れかえっていた。 人が多い…。 「人が多い…。」   「東京は、色んな所の人間が集まってますから。僕は京都の方が好きですよ。」 「あたしも…。人で酔いそう…。」 「ちょっと、そこで止まってくれ。」 蓮が運転手に、話し掛けた。   「かしこまりました。」 そう言って、信号を越えた先に車を停車させた。 「蓮?何処に行くの?」 「ちょっと、待っててくださいね。すぐに戻ります。」 ポンポンっと、優しくあたしの頭を撫でて、車を降りて行った。 車を降りた本城蓮は、カフェに入った。   ここのカフェは、可愛らしい飲み物を提供しており、女性向けのカフェだ。 本城蓮は、女の中を掻き分け、御子柴聖の為に飲み物を注文した。   「この苺のやつ、お願いします。ホイップ?多めで。それと、アイスコーヒーを2つ。持ち帰りでお願いします。」    「か、かしこまりました。」 店員は本城蓮の顔を見て、頬を赤く染めた。 本城蓮はそんな事をお構いなしに、注文の商品を待っていた。 カフェにいる女客達は、本城蓮に釘付けであったが、当の本人は女客達に興味などなかった。 何故なら、御子柴聖以外の女に興味がなかったからだ。 スラッと背の高い本城蓮は、スタイルが良く見え、一般的な男よりも顔が整っていた。 その容姿の所為なのか、女達の視線が痛いくらいに注がれる。 そんな時、露出度の高い服を着た2人組みの女が、本城蓮に声を掛けた。 「お兄さぁん。甘い物、好きなんですかぁ?」 「良かったら、私達と一緒に…。」 「どっか行ってくれないか。」 「「え?」」 本城蓮は声を低くくし、女達に言葉を放つ。 「聞こえなかったのか?どっか行けって、言ったんだ。」 「え、えっと…。」 「そんな言い方…。」 本城蓮のキツイ言い方に驚く女達は、思わず後退りする。 本城蓮は女達を無視して、注文したドリンクを手に取り、カフェを後にした。 「お嬢、喜ぶかな。」 そう呟く本城蓮の頬は緩み、足早に車に戻った。 御子柴聖 十七歳 どこに行ったんだろう…。 カチャ…。 持っていた鞄の中から妖、銃(ようじゅう)を取り出した。 克也さんが、東京に行く時にくれた物だ。 2つの妖銃には、すみれの花の刻印が刻まれていた。   あたしが、克也さんにお願いした物。 蓮がすみれの花を、あたしにくれたから…。 妖銃を眺めていると、車のドアが開いた。 ガチャ。 蓮の手には、ホイップ多めの可愛らしい飲み物が握られていた。 赤色と白いホイップ…。 見た事のない飲み物だな…。 「お帰りなさ…って、それは?」 「お嬢どうぞ。」 そう言って、蓮はあたしに飲み物をくれた。 「こ、これは何?」 まじまじと飲み物を見つめた。 この可愛い飲み物は、本当に飲めるのかな…。 「東京の名物です。飲んでみて下さい。」 「う、うん…。」 恐る恐る、飲み物に口を付けた。 口の中に甘いのと冷たいのが広がる。 これは…、苺? 甘酸っぱくて、美味しい。 「お、美味しい!!」 「良かった、お嬢甘いの好きでしたよね?御子柴家に居た時は、自由が無かったじゃないですか。こっちに来て、少しは自由を満喫して貰えればなって…。」 蓮は照れながら、頭を掻いた。 ドキンッ、ドキンッ。 「蓮…、ありがとう…。」 ドキドキする胸を押さえながら、蓮にお礼を言った。 あたしの為に、買ってきてくれたんだ…。 あたしの為に…。 「お嬢が喜んでくれたのなら、良かったです。」 そう言って、買って来たアイスコーヒーに口を付け、運転手にもアイスコーヒーを渡した。 「あ、ありがとうございます、蓮様。」 「気にするな、運転してくれてるしな。」 「勿体無いお言葉です…。」 「蓮は気遣いも出来るんだね。」 蓮はよく、周りを見てると思う。 人に対しても気遣いが出来るし、周囲の変化も見逃さない。 「いやいや、そんな事はありません。ふっ、お嬢。口元にホイップが付いてます。」 「え、え?どこ?ここ?」 手探りで口元に触れるが、蓮はクスクスと笑っている。 「違いますよ、ここです。」 スッと、蓮の長い指が口元に触れた。 「あ、ありがとう…。」 「いえ、お口に合って良かった。」 さり気ない仕草にドキドキしてしまう。 蓮と一緒にいると、心臓がもたないよ…!! 運転手もあたし達2人を見つめ、ゆっくりと車を走らせた。 暫く車を走らせると、大きな門の前に停車した。 「到着致しました。」   車の窓から外を見つめると、お金持ちが通いそうな学校が見えた。 「あー、ダリー。」 高級感のある門を、一般的に不良と呼ばれる生徒達が潜っていた。 派手な髪に沢山ピアスが開いていて、着崩した制服。 「東京陰陽学院は、表向きは不良高校なんです。陰陽師の通う学校と言う事は伏せているんです。色んな所の陰陽師の末裔の子供達が、居ますから…。」 「なるほど…。」 秘密にしておく必要が、あったって事か。 訳ありな子達が通ってる学院…って、所かな。 「裏に車を回してくれ。」 「かしこまりました。」 蓮がそう言うと、車が走り出した。 走り行く車を見つめている人物に、あたしは気が付かなかった。 前髪の少し長い赤い髪の少年が、走り行く黒い車を見つめていた。 「あの車…、本城家の…。何で、こんな所に?」 「おーい!何してんだよ!任務に遅れるだろ?」 「あ、悪りぃ。」 少年は車に背を向けた。
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