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道標の話、二つ目
「あの人には内緒にしてね」
そう言うと、女性は別の男性と指を絡めあっていた。
「結婚したばかりなのに、俺みたいな男と一緒にいていいのか?」
「ひどいわ、私ばかりを悪者みたいに。あなただってそうしたいくせに」
女性は子どものように拗ねた眼差しを向けながら、男性の指から腕へ、指先を伝い触れてゆく。邪険にされればされるほど、猫のようにじゃれてみたくなる。
筋肉質の胸元は、本来、女性の結婚相手であるはずの中肉中背の男性とはまるで違った。触れるだけで身体が熱くなり、痺れる指先だけが離れることを忘れたように首筋へと誘う。
男性は一口ワインを口に含めると、ニヤリと微かな笑みを浮かべたまま女性を見つめ、長い艶やかな髪に触れた。
「君も飲むかい? それとも、やめとく?」
「そうね。でも、しばらくはもうお酒もコーヒーも飲むのは控えるわ、念のためにね」
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