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道標の話、三つ目
女性を挟んで、男性は二人睨み合っていた。
「どうしてあなたが、ここに?」
女性は、突然姿を現した夫のところへ、そそくさと駆け寄った。
「前に勤めていた会社の先輩なの。たまたま会って話していただけよ」
中肉中背の男性は女性に見向きもせず、相変わらず筋肉質の男性を睨んでいる。
「どんな仲か僕の知るところではないが、僕の見えないところで会うのは控えてもらいたい。妻はもう、一人の身体ではないのだから」
夫は妻の身を庇うように、男性に詰め寄り責立てた。
「俺をまるで不心得者のように見下して欲しくないなあ。偶然会うことも許されないとは、一体俺をどんな風に感じているんだろうな」
「いつもはこんな人じゃないの。あなた、失礼よ。謝って」
「その必要を僕は感じない。むしろその逆だ。僕との未来を壊さないでいただきたい。貴方からはその匂いを感じる。悪いが、帰ってもらえないかな」
「納得はいかないが、そうさせてもらうよ。せいぜい、お幸せに」
振り返ることもせず、筋肉質の男性は部屋を出ていった。
女性は机の上に置いてあった携帯電話を手にすると、ほんの少しだけ大きくなった腹部を押さえ、奥の部屋へと逃げるように入っていった。
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