金色の車

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 ゼゼが隣町に行くために森の中の一本道を車で走行中、誰もが見慣れない走行物がぞーとエンジン音を立てながらゼゼの前方を走行していた。直方体にサイドミラー、尾灯と上部から左右に向かって下り坂の瓦屋根があり、全体が金色をしている。金属の光沢ではなく、光を吸収しているのではないかというくらいはっきりとした金色である。窓の類がついておらず、中に生物が入っているのか定かではない。深緑に突如として現れたそれは色、形の両方でゼゼに驚きを与えた。  「どこかの団体が秘密裏に研究している機械なのか、それとも奇怪な生物なのか」と考えを巡らせていた。  その間に速度の差により車間距離が詰まっていった。それに気づき、ゼゼはブレーキを踏み車間距離をとることに努めていると、金色の車は方向指示器を金色に光らせ、減速した。この先はまだ深緑に挟まれた直線であり、左折するようなところはない。ゼゼはそれを知っており、自分の速度のほうが速いので道を譲ってくれたのだと思った。  案の定、左に車体を左に寄せ停車するほどのさらなる減速をした。ゼゼはこれまでの減速による移動距離の損失を補うかのように加速をし、追い越した。  その後、金色の様子を確認した。追い越されたものの様子を確認することは当然であったし前面の構造を知りたい欲からでもあった。  金色の様子自体が摩訶不思議であったがそれ以上の事象がゼゼの目に映った。後方には深緑と直線のみであり、見逃すはずのない金色が視認するっことができなかった。この衝撃から車の運転中である事実を忘れてしまうほど、後写鏡を凝視してしまった。慌てて前方に視線を移すが脳内は依然として後方の画像を見ていた。  「車が消えたということは幽霊や幻覚であろうか。幽霊であるならばどういった意図で俺の前に現れ、消えるまでの一部始終を見せたのか。自分が停車したと思っている位置に別の次元に移動できる道があるのであろうか、というか幽霊も車乗るんだ、車も幽霊と同じく透過できるんだ、そもそも車自体幽霊の場合もあるのだろうか、幻覚ならばなぜ金色という深緑に囲まれた山中であまりに特異で目立つ色の幻覚なのであろうか」とゼゼはいくつも金色の創造を試みたが悉くファンタジーの領域に集まり一向に結論に達することはなかった。  また、そもそも金色の鉄塊が時速40㎞以上の速度で走行していることにゼゼは恐怖を感じ、ハンドルを引き寄せるように力を入れた。自分の車にはガラスがついているだけで外から見たら金色の車とさほど遜色ない鉄塊を操縦していたからである。  これらのような考えを巡らせながら相変わらず深緑にきれいな直線を引いた、自然と人工の共演を見ているようなきれいな景色の中を走行しているとあるトンネルの入り口が見えてきた。鉛筆ほど細い幹の木が直線の両脇に生えており、まるで木同士が会釈をするようにしなっておりアーチを形成していた。そして自然の驚異を伝えるように奥へ行くほど暗くなっていた。また、葉がほとんどなく、幹の中ほどからてっぺんまで真っ赤な果実が幹に沿って囲むようになっていた。  ゼゼはその奇妙なトンネルに近づきながらどうするか考えた。「金色の車と赤色のトンネルあまりに常軌を逸した経験を短時間で経験している。しかし、金色の車との出会いで危険はなかったし、何しろ急いでおり考慮するに値しないと判断できる。」  ゼゼは決心し、車のライトをつけ、トンネルの入り口を通った。出迎えた木と同様礼儀正しい木が両脇にどおぉと列が伸びていた。また、奥へ行くほど前後の間隔は次第に狭くなり、次第に太陽の光は入らなくなった。ゼゼは暗闇に入っていく過程でライトが機能していないことに気づいた。しかし、ハンドルの右レバーを確認するとそれは確かに点いていると報告していた。また、完全な真黒になるとハンドルやメータ、自分の手にいたるまですべてが見えなくなった。  真黒がモウモウと車を包み囲んだ。手足の感覚でハンドルとアクセルの存在をかろうじて確認できているが、外の状況は全く不明である。  「かもしれない運転とはよく言ったものだ。この状況では道が直線じゃないかもしれないし何かがみちにころがっているかもしれないし、生きて帰れないかもしれないではないか」とゼゼは光は愚か黒しか存在しない単色の世界に敗北を認め、おそらく一定速度で進み続けた。すると、車の両脇に真っ赤なリンゴが列をなしており、列はずっと奥まで続いているようであった。その列と列の間を進んでいくと前方に白い点が確認でき、次第にアーチ状になった。出口である。ゼゼはようやく多彩の世界に戻ったのであった。  結局何がどうしてこうしたか定かではないが、結果はゼゼに認識の改善を求めたこととなった。  
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