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「でも、残念ながら、私、今もこうして生きておりますの」
数多の暗殺者が仕向けられ、数えられないほどの生命の危機にさらされながら、ベロニカは今日も生きている。
「あまりにも私が死なないもので、ついに陛下はしびれを切らしてしまいまして。伯爵家以上の貴族に最低一回、どんな手段を使っても構わないから、暗殺を企てるようにと命令を出されました」
これが伯爵が昨日来られた理由ですよね? とベロニカは申し訳なさそうに謝る。
ちなみにこの命令に背いたものは、家を取り潰すとまで言われている。
非常にばかばかしい命令ではあるが、貴族として名を連ねている以上、そしてストラル領地に住まう多くの領民の命を預かる以上、この命令に背くわけにはいかなかった。
「私、死ねないんです。何せ呪われているもので」
困りましたねぇと、どこか他人事のようにベロニカはそう漏らす。
「そもそも、その呪いとは何なんだ?」
「まぁ、伯爵ったら、私の呪いのことをお調べにもならないで殺しにこられたのです?」
やはり少し変わった方ですねとベロニカはとても楽しそうにそう言って微笑むとすぐそばにあった果物ナイフを手に取る。
「"天寿の命"と言うものだそうです」
そう言って、ベロニカは自分の手首にナイフをあてようとした。
が、横に引くより早くそれは叩き落とされる。
「バカっ!! 死ぬ気か!?」
伯爵にものすごい剣幕で怒られた。
「いえ、死にませんよ!? 見てもらった方が早いと思っただけで」
慌てたようにそう弁解したベロニカは、落ちたナイフを手首にあて、伯爵があっと思う間もなく今度こそ横に引く。
「何やって……!!」
そう怒鳴った伯爵は目を大きく見開く。
ベロニカの血が触れた瞬間、ナイフはさびつき朽ちて折れ、ベロニカの切れたはずの手首は傷一つなく綺麗に元に戻っていた。
「これは……一体?」
「寿命以外では死なない呪いだそうです」
うーん、また新しいナイフをどこかからくすねてこなくてはなりませんね、とボロボロになったナイフを拾い上げ、ベロニカは仕方なさそうにそうつぶやいた。
「呪いって、それだけか?」
「それだけです。が、十分脅威だと思いませんか?」
確かに、それはヒトの理を外れているかもしれない。だが、それほどまでに警戒しないといけないようなことだろうか? と伯爵は首をひねる。
「例えば、だが。姫を幽閉しておくとかではダメだったのか? 何も殺さなくても」
「自国に呪い子がいる、と言うだけで陛下は耐えられないのですよ。ましてや殺しても死なないのです。かつて、何をやっても死なない呪い子は、どうしようもない王を討って玉座を取り上げてしまったことがあるのだとか」
まぁ、色欲に溺れた王の自業自得な気もしますけどとベロニカはため息を漏らす。
「ちなみに姫にはそんな野心が?」
「あれば殺してくださいなどと言いません。正直もう疲れてしまったのです。呪い子と後ろ指をさされることにも、死ぬことを望まれ続けることにも」
やはりどこか他人事のようにベロニカはそう言って、自作のコーヒーを飲みほした。
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