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【 第一話: 柿の木の下 】
結婚式の前日――。
父が、見せてくれた私の小さい頃の『思い出の作文』。
これは、私が丁度10歳の時に書いた作文だという。
「懐かしいな~。こんなこと確かにあったなぁ。雛子が泣いて『オスの小鳥さんが動かない』って、父さんのところに持って来たんだぞ」
白髪交じりの黒縁メガネをかけた父が、実家のリビングで目を細めながら懐かしそうにそう語る。
明日の結婚式の前に、父が思い出の品として大事に仕舞っておいたこの作文を、この日、私に見せてくれたんだ。
「そうだったんだ。何かこんなことあったような記憶は、薄っすら残ってる気もする」
「雛子が『小鳥さんのお墓を作る』って聞かないから、この家の庭の『柿の木の下』に埋めたんだぞ」
「ふ~ん」
母は、私が幼い頃、家を出て行き、そのまま帰って来なくなったと父が教えてくれた。
だから私は、小さい頃からずっと、この実家で父と二人暮らしをしていた。
そんなこともあり、私がひとりで寂しくないようにと、父は2羽の番いの小鳥を買ってくれたという。
本当にやさしい、私の自慢の父だ。
「でも、メスの小鳥も結局、逃がしちゃったんでしょ?」
「ああ、雛子が窓からかわいそうだからって、逃がしちゃったな」
「その小鳥、どこに行っちゃったんだろうね。本当に自由になれたのかな?」
そんな私も、もう30歳になる。
「この作文、丁度20年前に書いたんだね。でも、我ながら傑作ね。うふふっ」
この作文を明日、結婚披露宴で、父はやさしい娘との『思い出のエピソード』として話すらしい。
お酒を片手に、その作文を見つめる父の目に、キラリと光るものが見えた。
「お父さん、30年間、私を育ててくれてありがとう」
父は一言、「ああ……」と言って、メガネの奥の涙を何度も拭っていた……。
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