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ゴオォォォォ!
ケイゴ先輩の炎を指差す。それに従い、すさまじい風は勢いよく炎をあおる。
「ギャアアアアアアアア!!」
耳をふさぎたくなるような、断末魔の叫びが聞こえる。
風にあおられたケイゴ先輩の炎は、悪霊たちの何倍もの大きさになり、その威力を増した。
炎の餌食となった悪霊たちは一瞬にして灰と化す。
「イッセイ!」
「わかってる!」
イッセイ先輩はひざまずき、地面に触れる。
「この場にさまよう魂たち全てを鎮め、地に帰せ!」
すると、塵になった悪霊たちがどんどん地面に吸い込まれていった。
吸い込まれたその場所は、少しの間だけ黒く染まったけれど、イッセイ先輩が浄化をして元どおりになっていく。
その様子を呆けながら眺めているうちに、足が地面についた感触がした。竜巻は、いつの間にか消えていた。
「リノ!」
膝から崩れ落ちそうになった私を、ケイゴ先輩が支えてくれる。
「大丈夫か?」
「はい……」
何とか自力で立とうと思うのに、足に力が入らない。足、というよりも、腰かも。いわゆる、腰が抜けましたという状態。
「もう、なにがなにやら……」
必死すぎて、たった今目の前で起こったことが現実とは思えない。
あんなにあちこち動き回ったはずなのに、私たちは第二体育館の舞台へと続く、入口の扉のところにいたのだ。
そして、第二体育館は何事もなかったかのように佇んでいる。もう黒い影のようなものはどこにも見当たらないし、空はすっかり晴れ上がっていた。
「お疲れ様、みんな」
振り返ると、千川先生が微笑んでいた。
「千川先生、外側には」
「問題ないよ。ここで起こったことは誰も気付いていない。それより、清水君を連れてきてくれてありがとう、神谷さん」
「いえ。彼のおかげで金原さんを救うことができました。さすがです、千川先生」
千川先生は見る者をうっとりさせるような微笑みを見せ、倒れているカリン先輩と清水先輩の元へ向かった。
二人はレン君が守っていたはずだ。
「レン君が守りに回ったんだね」
「兄ちゃんに言われたから」
「そうか、ありがとう」
二人は気を失っているだけだった。
千川先生は、カリン先輩の額の部分に手をかざす。すると、カリン先輩がフッと消えてしまった.
「カリン先輩っ!!」
驚いて叫んだ拍子に、バランスを崩す。
「おいっ」
「わぁっ」
倒れそうになる私を支え、ケイゴ先輩が大きな溜息をつく。その後、有無を言わせず私を抱き上げた。
「ケイゴ先輩っ!」
「おとなしくしとけ。危なっかしい」
「宮野君、今は特別に許可するけれど、今後はむやみやたらに莉乃に触らないように」
「……げ」
「ケイゴ、千川先生は姪バカなんだ。気をつけた方がいい。レンも釘を刺された」
「レンもかよっ!」
みんなのんきに笑っているけれど、カリン先輩が消えてしまったというのに、どうして!?
千川先生はよいしょ、と言って清水先輩をおぶる。
「莉乃、ここにいた金原さんは実体じゃない。彼女の身体は病院にあっただろう?」
「あ!」
そうだった。カリン先輩の身体は病院だった。
さっきまでここにあったのは、カリン先輩の精神……ううん、魂だ。カリン先輩の魂は悪霊たちから解放され、自分の身体へと戻ったのだ。
「これで、彼女は目を覚ますはずよ」
シズカ先輩の言葉に、私は大きくうなずく。
「よかったです」
「また、一緒にお見舞いに行きましょうね」
「はい!」
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