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「私たちだって、最初から自分の力を自在に使えたわけじゃないの。リノちゃんはやっとその力を認めたばかりなんだから、まだうまくいかないのは当たり前。でも、目の前の彼女を助けられるのは、私たちソウサク部だけなの。そして、彼女の中の悪霊たちを外に追い出すことができるのは、神聖な風を起こすのが一番早い。リノちゃん、そしてハヤテの力が必要なの」
そうだ。悪霊に囚われてしまった彼女を助けられるのは、私たちだけなのだ。
こんないい加減で怪しい記事にまどわされてしまった彼女にも非はある。でも悪いのは、こんな悪質な記事を載せた大元にある。彼女はそれを、純粋に信じてしまっただけなのだから。
そう……助けなきゃいけない。ううん、助けたい。
私は大きく頭を振り、再び意識を自分の内へ集中させる。
「よし、いくぞ」
イッセイ先輩の小さな声が聞こえた。でもそれには構わず、私はひたすら集中を続ける。
やがて、大地が波打ったような気がした。その瞬間、
「ぎゃああああっ!」
つんざくような悲鳴がして、彼女の身体は大きく傾いていく。
──今だ!
「ハヤテ、風を起こして!」
ゴオオオッ!
「グワアアアアアアアーーーーー」
何かがつぶれたような、そんなゆがんだ音がいくつも重なり、耳障りな叫び声となって辺りに響き渡る。
すさまじい叫び声をあげながら、彼女の身体からは、黒いけむりのようなものがモクモクと立ち上っていく。それらが悪霊であることは明らかだった。
「シズカ!」
ケイゴ先輩の声に、シズカ先輩は広い範囲に水の結界を張る。結界に閉じ込められた悪霊たちが、一斉に暴れ出し、おどろおどろしい声をあげる。
攻撃してこようとするもの、助けを求めようとするもの、様々だ。
この中には、ただ静かに漂っている霊もいたはずだ。穏やかにこの地を見守っていた霊だって……。なのに、人の悪意に触れたせいで、悪霊に身を堕とすことになってしまった。
ごめんなさい、私たちが今からあなたたちを解放するから……!
「一気にいくぞ! レン!」
「いつでもいけるよ!」
宮野兄弟がともに炎を放つ。それと同じタイミングで、私はハヤテに命じた。
「ハヤテ、炎に力を!」
宮野兄弟が放った炎はハヤテの風のあおりを受け、その大きさと勢いを増す。また、炎を繰り出した瞬間にシズカ先輩は結界を解いており、炎は瞬く間に悪霊たちを飲み込んでいった。
炎に巻かれて断末魔の悲鳴をあげる悪霊たちの声は、聞くに堪えない。いくら忘れようとしても、脳にこびりついてしまうほどに恐ろしい。
ぎゅっと強く目を閉じていると、不意に耳元がふわりとあたたかくなった。
「……?」
目を開けて見上げると、ケイゴ先輩が両手で私の両耳をふさいでいる。そして、自分の声だけが聞こえるように、私の耳元に顔をよせた。
「よく頑張ったな」
その声は、とんでもなく優しくて、心地よくて、それでいて色っぽくもあり、私は顔はボンッと爆発するように赤くなる。
そしてそれは声だけじゃなく、表情までそうなのだからたまらない。
ケイゴ先輩、それ、中学生の顔じゃないです!
ケイゴ先輩にこんな顔をされたら、きっと大人の女の人でも真っ赤になってしまうだろう。もしくは、そのままケイゴ先輩を誘惑しにかかるかもしれない。
「顔、真っ赤。可愛いな、リノは」
「~~~~っ」
「どう? リノは俺推しになった? トモより俺の方がよくない?」
そう言われた瞬間、ハッと我に返った。
私の推し、大好きな『コネクト』の推し、トモからケイゴに? とんでもない!!
「トモ!! 私の推しはトモです! トモ一筋ですからっ!!」
「……」
私の叫びに、みんながこちらを向く。
「あ……」
辺りはすっかり静まり返っていて、悪霊たちの姿はいつの間にか消えている。イッセイ先輩の浄化も終わり、彼らは土に帰ったのだろう。
うわ、なんか恥ずかしい!
慌てて両手で顔を覆うと、シズカ先輩が笑いながらケイゴ先輩を押しのけ、私をぎゅっと抱きしめる。
「そうよね。ケイゴがいくら口説いても、リノちゃんの推しは変わらないわよね」
「うう……はい」
「残念だったな、ケイゴ」
「兄ちゃん、玉砕」
「残念とか、玉砕とか言うな!」
気の毒そうな顔をするイッセイ先輩とレン君に、ケイゴ先輩が食ってかかっている。
あぁ、無事に全部終わったんだ。彼女も、隅田さんも助けることができたんだ。
みんなのリラックスした顔を見てホッとした途端、私は一気に脱力したのだった。
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