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「わぁ! ケーキだ! おいしそう!」
私は、千川先生が持ってきてくれた白い箱の中身を見て、おおはしゃぎする。箱に印刷されているのは、この近辺で一番有名な洋菓子店の名前。
「莉乃は、いちごのショートケーキだろ?」
「うー、いちごもいいけど、ガトーショコラもおいしそう。モンブランもすっごくおいしそう」
「莉乃、ケーキは一つだけよ」
「はーい……」
今日、数年ぶりに千川先生が家にやって来た。どうやら、お母さんが呼んだらしい。
家はそれほど離れていないというのに、千川先生は何年もここへ来ていなかった。それは、千川先生の仕事の関係やら、いろいろあったようなのだけれど……。
「莉乃、プリンもあるよ」
「わぁ!」
「律! あなたは莉乃を甘やかしすぎよ」
「可愛いから仕方がない」
「もう!」
学校でも姪バカを発揮しているけれど、家ではさらに発揮、いや、暴走ぎみかもしれない。
私が小さい頃から、千川先生……ううん、千川のお兄ちゃんは変わらない。ずっと、ずっと姪バカなのだ。
「お兄ちゃん、大好き!」
「莉乃~!」
「莉乃、まさか学校でお兄ちゃんなんて呼んでないわよね?」
「さすがにそれはない。ちゃんと「千川先生」って呼んでるもん」
「それならいいけど」
最初は「先生」と呼ぶのが変な感じだったけれど、ソウサク部に入ってからは慣れてしまった。
みんな「千川先生」と呼んでいるし、接することが多いからこそ慣れたというか。
「律、莉乃はソウサク部でちゃんとやれてるの?」
「姉さん、莉乃から話聞いてない? いやもう、大活躍だよ」
「お兄ちゃん、それは言いすぎ」
「他の子たちが優秀って聞いてるから、莉乃はそれについていけるのかしらって、心配してたのよ? でも、莉乃はお母さんの力を濃く受け継いでいるから、大丈夫だろうとは思っていたけど」
千川のおばあちゃんの力を?
それは初耳だった。
「そうなの?」
お母さんは小さく笑って、コクリとうなずく。
「莉乃は自分の力を否定していたから、今までこういう話はできなかったの」
「莉乃が否定するのも仕方がないよ。それが、いじめられる原因にもなっていたんだから」
やっぱり、お母さんとお兄ちゃんは私の力のことを知っていたんだ。だから、私を旭丘学院に入学させた。
──風の力が必要だったから。
「違うよ、莉乃」
「え?」
千川のお兄ちゃんは、まるで私の考えを読んだかのように、首を横に振った。
「もちろん、風の力は必要だった。でも、それだけじゃない」
「他に……何があるの?」
ふわりと花が咲くように、お兄ちゃんが笑う。
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