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「彼らと莉乃を引き合わせたかった」
「……」
「同じ力を持つ仲間ということもあるけど、彼らは莉乃の心強い味方になってくれると思った。そして、彼らも莉乃を気に入るだろうって、そう確信していたよ」
「お兄ちゃん……」
「そして、実際にそうなった」
「あら、そうなの?」
お母さんが話に割り込んでくる。
私はなんとなく恥ずかしくなってうつむくと、お兄ちゃんは私の頭を何度も優しくなでて、自慢するように言った。
「莉乃はソウサク部のアイドルだよ。みんな、莉乃が大好きだ」
「あら、莉乃! よかったじゃない!」
「う……うん」
あんな風に囲まれて、好きという感情を向けられたことなんてなかった。
だから、時にはどうしていいかわからず、とまどってしまう。でも、それ以上に嬉しい。だって、私もみんなが大好きだから。
「ソウサク部の子たちって、揃いも揃って美男美女なんでしょう?」
「……」
お母さん、それは言わないでほしかったな。
私がいじけると、すかさずお兄ちゃんがぎゅっと抱きしめてきた。
お、お兄ちゃんっ!?
「その中でも、莉乃が一番可愛い!」
「……姪バカ」
「お母さん、それ、みんな言ってる」
「やっぱり」
「姉さん! 本当だって! 僕は莉乃が一番可愛いと思う!」
しかし、お母さんはお兄ちゃんの言葉を華麗にスルーした。
「律の言うことが本当だとしたら、莉乃はソウサク部でモテモテなんでしょう? ねぇ、その中で気になる人はいるの?」
「えっ……」
お母さんがワクワクしたような顔で私を見る。
お兄ちゃんの方を見てみると、見たこともないような情けない顔をしていた。そして「莉乃、いるのか? 誰だ? もしや……」なんてブツブツ言っている。
一瞬ドキリとしたけれど、お兄ちゃんの顔を見たらすっかり落ち着いてしまい、笑いが込み上げてきた。
気になる人……そんなの、決まっている。
「気になる人はね、イッセイ先輩とケイゴ先輩、シズカ先輩とレン君!」
「それ、全員だからっ!」
お兄ちゃんに即座につっこまれ、私はケラケラと笑い出す。
お母さんは呆れたように肩をすくめながらも、つられたように笑う。
「莉乃は、ソウサク部が好きなのね」
「うん!」
「よかった。それなら、莉乃の意見も聞かずに旭丘学院に入学させたことは、結果的によかったのよね!」
それは、いまだにちょっと納得できないけれど。
でも結局、私は旭丘学院になじんでいるし、そこで素敵な仲間にも出会えたわけで。
そんな風にちょっと複雑な気持ちになっていると、お母さんが私の頬に手を当て、小さな声で言った。
「……莉乃を危険な目にあわせることはわかっていたの。だけど、あなたの力を眠らせておくわけにもいかなかった。いまさらだけど……ごめんなさいね、莉乃」
「お母さん……」
「心配だった。でも、安心もしてた。だって、莉乃は毎日楽しそうにしていたから。私の決断は間違いじゃなかったって」
「うん、大正解だったよ」
私の意思を無視して、お母さんと千川のお兄ちゃんは私を旭丘学院に入学させ、ソウサク部に入部させた。
そこにはきっと、大きな葛藤があっただろう。
私の風の力は、私の身を守ってくれる。それでも、危険な場所に放り込むことになるのだ。すごく、すごく迷ったと思う。
「私、旭丘学院に入学して、ソウサク部に入部できて……本当によかったよ」
「莉乃……」
お母さんの顔が、一瞬だけくしゃりとくずれる。でもすぐに笑顔になって、キッチンの方へ向かう。
「お茶をいれてくれるんだろう。莉乃、ケーキを選ぼう」
「うん!」
お母さんの背中をそっと見送り、私は再び箱の中をのぞきこんで、ああでもない、こうでもないと、頭を悩ませるのだった。
了
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