思慕

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石原と和田から話を聞き終えて二人を帰し、自分の仕事をしていた青島は、目処が立ったところで時計を見て、思わず舌打ちしそうになった。 「お疲れ、お先。」 オフィスは既に半数以上が帰宅した後で、駐車場へ急ぎながら、今から向かうと未来にメッセージを送ると、すぐに返信が来た。 帰宅ラッシュの渋滞を何とか抜けて、いつものコインパーキングに車を止める。 事務所を横目に玄関に向かうと、カレーの匂いがした。 そしてチャイムを鳴らすと鍵を外す音がして、会いたかった笑顔で迎えられた。 「宏さん⁉︎」 玄関を開けた途端、抱き締められた未来は、驚いたように青島の名前を呼んだ。 「おかえり。」 青島が囁き、未来はその背中に腕を回しながら、ただいまと返事をした。 なかなか離してくれない青島に、未来はもう一度名前を呼んだ。 「もう少し。」 と言って、青島は益々その腕に力を込めた。 「葛藤してるんだ。話からするべきか、そのままベッドに押し倒すべきか。」 すると未来は、クスッと笑った。 「それなら答えはひとつ、前者です。まずは中に入りましょう。」 未来の言葉に低く唸った青島は、抱き締めていた腕を緩めると、両手で未来の頬を包むようにしてから唇を重ねた。 いつもより長い、青島の抱擁の理由(わけ)に、心当たりのある未来の心は、少し痛んだ。 唇を離した青島は、まだまだ名残惜しそうに未来の髪を撫でると、やっと靴を脱いだ。 「本当に、残り物のカレーで良かったんですか?」 出張前に作って、余ったカレーを食べながら、未来は申し訳なさそうに言った。 「いいんだよ。出張から帰ってきて疲れているだろうし、今日は外に行く気分じゃない。それに派遣社員の子と『あまのがわ』に行って、昼も食べたしな。」 「珍しい。でも良いことです。少しでもお昼、食べて下さい。」 そう言う未来に、青島は拗ねた子供のように返事をする。 「昨日は寝付けなくてな。今朝は寝坊した。」 未来は目を丸くして、青島を見た。 「宏さんが、寝坊…。」 「ごめんなさい。そんなに心配でした?」 未来に言われて、青島は言葉に詰まる。 そんな青島に、未来は微笑むと言った。 「たいした話じゃないんです。ご飯食べて、お風呂入ったら、聞いて下さい。」 優しく笑う未来に、青島の表情もほころんだ。
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