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小学校四年生の夏休み、遊ぶ約束をしていた私たちは偶然ユキエと出逢った。
「どこに行くの?」
ニコニコと私たちに近づいてきたユキエ。
日焼けしていない白い肌、それよりも白く可愛いワンピース姿のユキエはやはり町の子らしくない。
おまけに可愛くかけたポシェットにはその頃流行っていたアニメのキャラクターの人形型のキーホルダーがぶら下がっていた。
町の子たちはまだ誰も持っていない、欲しくても手に入らないそれを何でユキエが持っていたのか。
今にして思えば、東京に住んでいた別れた父親から送られて来ていた大事なものだったのだろう。
「涼しいところに行くの、ユキエも来る?」
来たって怖がりのユキエにはきっとついてこられまい、と誘って見たら。
「いいの?」
嬉しそうにユキエは、ついてきた。
その夏、私たちが遊んでいたのは神社の裏山。
「ここを降りるの?」
ユキエは怯えたような顔で私たちを見た。
「じゃあ、来なきゃいいじゃん。底はすっごく涼しいんだけどね」
子供が5人くらい余裕で入れるほどの大きな井戸の中。
石をつみあげて作られたそれは覗き込んでも真っ暗で、もう干からびているのだと思ったのに。
放り込んだ石に反応しポチャンと音がしたから、私たちはそこに降りてみたのだ。
石を這うように伸びたツルを、のぼり棒のように降りた先には、ヒンヤリとした水が子供の膝までしか残っていなかった。
昼間でも薄暗い井戸の底は涼しくて、その夏のほとんどを私たちはそこで遊んでいたのだ。
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