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怖がるユキエを置き去りに、いつものように三人で井戸の底に降りて遊んでいると。
「きゃっ」
という小さな悲鳴と共にユキエが井戸の中に落ちてきた。
怪我をしたのかも、と焦る私たちに。
「大丈夫、途中で手が疲れちゃって」
申し訳なさそうに笑ったユキエに、焦らせないでよと腹立ち紛れに冷たい水をかけてやった。
ユキエはとても楽しそうだった。
転校して来てから一番楽しそうに笑うユキエを見て、私も楽しくなった。
ナツミもアキラも楽しそうで、大人に知られない空間の中で分かち合う秘密が子供同士の中で連帯感を育んだのだろう。
ユキエのお尻を押しながら、ようやく井戸から全員這いあがったのはもう18時近く。
帰ろうと神社の階段を下ったあたりで、ユキエが「あれ?」と声をあげ足を止めた。
「なに? どうした?」
「ちょっと私、忘れ物しちゃったみたい」
「もう暗くなるよ? 明日にすれば?」
ナツミの言葉に曖昧に笑ったユキエは、また神社の階段を昇り引き返していく。
「チハルちゃん、ナツミちゃん、アキラくん! また明日も遊ぼうね! 楽しかったね! バイバイッ! またね~!!」
何度も手を振り駆けていくユキエの白いワンピースがヒラヒラしていたのが、今も目に焼き付いている。
そしてユキエは、消えてしまった。
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