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神隠しだと言われた。
ユキエがいなくなった日の夜は、土砂崩れや川が氾濫するほどの大雨が降った。
そのせいでユキエの捜索が始まったのは翌日の昼過ぎ。
最後に遊んだ私たちの案内で古井戸の捜索も行われた。
中には夕べの大雨で大量の雨水が入り込んで大人の胸丈ほどの水が溜まっていたそうだ。
――どうしよう。
焦る私たちの耳に届いたのは、井戸の底を捜索していた消防隊員の声。
「中には誰もいないぞ」
その声に心底ホッとした。
「ユキエは何を忘れたのかしら」
目を真っ赤にしたユキエのお母さんに、私たちは知らないと首を振った。
ナツミとアキラは知らない、きっと今も。
だけど、私だけは知っている。
ユキエの忘れ物。
◇◇◇
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