秘密

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 井戸に腰かけて中を覗く。  酔っていてもシャンと頭が冴えていた。  湿った夏の空気が肌にまとわりつく。  夜でもジジジッと時折蝉が鳴くのは、人の気配に気づいているからだろうか。  覗き込んだ井戸の底に、足元に転がる石を一つ投げ入れたらカラカラと乾いた音がした。  もう本当に干からびたのだろう、井戸を覗き込んで。 「忘れ物、届けに来たよ」  ユキエに声をかけた。  きっとあの日、ユキエはこれを忘れたと思い込んだのだ。  ポケットに捻じ込んでいたもの。  掌にのった小さな人形のキーホルダーが月明かりに照らされる。
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