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あの日、一番最後にユキエのお尻を押しながら井戸を昇っていた私の目の前に、ポシェットにぶら下げたこの人形が目に入った。
欲しかった、とっても欲しかったから。
ブツンとキーチェーンを引きちぎってポケットに入れた。
誰も私が盗ったなんて気づいていない、きっとユキエですらも。
だけどユキエは気付いたのだ、人形が無いことに。
落としてしまったと思い込んで引き返したのだ。
井戸の底には横穴があった。
もしかしたら、ユキエは人形を探しにそこに入ってしまって出られなくなってしまったんじゃないかと思っていた。
けれど、大人が誰もいないと言っていたから、きっとユキエはここにはいないのだ。
どこか道を間違って山の中に消えてしまった、そう思ってきたけれど。
やはりこれを返すのはこの場所だと思った。
あの日、ユキエのポシェットから盗んだこの場所で返さなければいけないとずっと思っていた。
ユキエ、ごめん。
本当にごめん。
いっぱいイジワルしちゃってごめん。
可愛かったから、イジメたんだ。
羨ましくってイジメたんだ。
きっと私はあんたに憧れてたのに、あの頃はただ嫉妬するだけだった。
やったことが子供すぎて、後悔してもしきれないけれど。
ごめんなさい、本当にごめんなさい。
盗んじゃってごめんなさい。
「また遊べなくてごめんなさい」
井戸の底に向かって手を伸ばすように人形を投げ入れようとした瞬間、バランスを崩した――。
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