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頬にあたる冷たい雫と背中や後頭部の痛みで、目が覚めた。
ゴツゴツとした感触に手が触れたけれど、暗がりの中で自分がどこにいるのかわからない。
光を探し見回した頭上には、ポッカリと開いた丸い口、そこから差し込んでいたのは雲に覆われかけている心もとない三日月の灯りだけ。
井戸の底だ、落ちたのだ――。
状況に一気に酔いが冷め、手にしていたはずのスマホを探すも見つからない。
今度は壁づたいにツルを探す。
小学校の時、昇り降りしていた頼みのツルを。
どんどん雲は月を隠し、雨が本格的に降り始める。
『今夜は大雨らしいよ。ユキエの涙かな』
あの日、ユキエがいなくなった夜のように土砂降りになるみたいだとさっきナツミが言っていた。
ようやくつかんだツルに掴まり、よじ登ろうとした瞬間に、ブチッと音を立ててツルは切れた。
古びていたせいか、小学生の時のような軽い体ではなくなったせいか。
慌てて代わりのツルを探しまた壁に手を這わせていたら。
一か所だけ壁がない場所に辿り着く。
これは、横穴だ。
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