72人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
記憶の中の押し入れはガランとしていた、はずだった。
だがしかし、押し入れの上段は布団で埋まっている。
きっとお兄ちゃん家族が泊りに来た時用かもしれない。
下の段に詰め込まれたのは私が聞いていた古いCDの入った段ボールや、あの頃の雑誌。
一冊の古いアルバムを持ち上げたら中に、挟まっていただけの一枚の写真がハラリと落ちた。
「っ、やだ」
子供が4人並んだ写真、端っこに写る白いワンピースを着た女の子の顔がマジックで塗りつぶされていた。
得体の知れない気味の悪さに、悲鳴をあげかけて。
こうして塗りつぶしたのは自分だということを思い出した。
一番左に写っているのは自分、その横にアキラ、それからナツミ、そして……。
ユキエだ、黒く塗りつぶされているのはユキエなのだ。
ユキエの笑顔が怖かった。
だから私は、その顔を真っ黒に塗りつぶしてしまったんだ。
恐る恐るその頃のアルバムをめくったら、同じように塗りつぶされている写真の数々。
それは全部ユキエの笑顔なのだ。
うすら寒くなってアルバムをバタンと閉じて、また押し入れの整理を続ける。
雑貨類を無理やりに押し込めた箱を空ける手が止まる。
中にあるものが何かを知っていたからだ。
恐る恐る開けた瞬間に、机の上に置いていたスマホが音を立てた。
最初のコメントを投稿しよう!