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◇◇◇
「ユキエ、もっと早く扇いでよ」
4月生まれの私、8月生まれのナツミ、10月生まれのアキラ、2月生まれのユキエ。
1学年1クラスの小さな私たちの学校に、ユキエが転校してきたのは小学校二年生の時だ。
ユキエの母さんは元々この町の出身。離婚してユキエを連れて実家に帰ってきたのだった。
4月生まれの私に比べてユキエは小さくて弱々しくて、東京から来たせいかどこか垢ぬけているように見えて。
私は何だかそんなユキエが、気に入らなかった。きっとナツミもそんな理由で、ユキエのことを最初から嫌っていた。
アキラは私やナツミを怒らせたら後が怖いことを知っていたせいか、空気を察してユキエに冷たかったのだと思う。
名前が季節を現わす4人組だからと、先生はユキエを私たちのグループに入れた。
「これでどう? チハルちゃん」
下敷きを使って必死に風を送って来るユキエは汗だくで。
「もっといっぱい下敷き振りなよ、風が弱いよ」
「ナツミちゃん、こんな感じ?」
ユキエはいつも笑っていた。
「こっちに風こねえぞ」
「ごめんね、アキラくん」
先生はそんな私たちを仲良しだな、と笑ってみていた。
学校では散々ユキエを使っておきながら、放課後はユキエと遊ばなかった。
一度遊んであげたら、足は遅いから鬼ごっこをしてもつまらなかったし、木登りすらできないから。
「もう、ユキエとは遊ばない」
そう言ったら泣きそうな顔で、やっぱり一生懸命笑うから腹が立った。
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