母は強し

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 カーチャン……それは子を成した女の事。  カーチャン……それは子からみた母の事。  カーチャン……それは男と結ばれし女の事。  カーチャン……それは母性と呼ばれる異能の力を宿しもの。  世界は、カーチャンという異能力者達による戦いの炎に包まれていた。  その戦いは何処にでも起こり、この小さな街でもカーチャン達の争いは等しく起こっていた。 「田中のカーチャン! 覚悟!」 「甘いわ! 鈴木のカーチャン!」  鈴木のカーチャンは買い物かご()からネギ()を抜いて田中のカーチャンへ切り掛る。  対する田中のカーチャンは腰に差していたフライ返し(魔剣フライ)を抜いてネギ()を受け止める。  ガキィンというアルミと植物がぶつかる音が響き、衝撃と摩擦で火花が散った。  一度離れて再度打ち合う。  キンッ! キンッ! と激しい金属音と火花を撒き散らしながら互角の戦いを繰り広げている。  何故二人は戦うのか、そんな事は些細な事である。  カーチャンが戦う理由等、ただ目が合う、それだけで充分なのだ。 「やるわね田中のカーチャン」 「あなたもね、でもそろそろ本気でいくわ! 私の異能で!」  田中のカーチャンはバックステップで一度距離をとってから手を翳した。  すると田中のカーチャンを守るように炎が吹き出し、背中に集まって一つの形をとる。  それは酢豚だった。 「なるほど、クックパッド使いなのね。奇遇ね、私もよ」  鈴木のカーチャンも手を翳す。すると同じように炎が彼女の周りをうねった後背中に集まる。  出来上がったのはアサリの味噌汁だ。 「「勝負!!」」  田中のカーチャンから酢豚が飛び出す。  鈴木のカーチャンからアサリの味噌汁が飛び出す。  二つは宙空でぶつかり合う。何度も、何度もぶつかり合って次第に空へと上がる。  空を飛びながら激しいドッグファイトを繰り広げる酢豚とアサリの味噌汁、酢豚はパイナップル(ミサイル)を放った。アサリの味噌汁は味噌汁色の軌道を残しながら追尾性の高いパイナップル(ミサイル)から逃げる。  反転、アサリの味噌汁はアサリ(機銃)を掃射してパイナップル(ミサイル)を撃ち落とす。  しかし酢豚の方が一歩上手であった。  酢豚は二発目の人参(ミサイル)を撃ち放っていたのだ。  避けられずアサリの味噌汁は撃墜される。 「そんな、アサリの味噌汁が負けるなんて」  鈴木のカーチャンは膝から崩れ落ちた。  最早勝敗は決した。クックパッドで負けたカーチャンなどに興味はないとでも言いたげに、田中のカーチャンはそこを立ち去ろうとする。 「見事な戦いだったわ」  声が掛けられた。鈴木のカーチャンではない。  野太い男の声。振り返ると夕陽を背にして一人の男がこちらへと歩いてきている。  筋骨隆々で逞しく、角刈りで厳つさを醸し出した男性。  しかし、彼が纏うオーラはカーチャンのものであった。 「そんな、あなた……カーチャンなの!?」 「そうよ、あたしの名前は後藤大吾……あなたと同じ、カーチャンよ!」 「なるほど、チ〇コの生えたカーチャンがいるという噂は聞いてるわ。それがあなたね」 「ふっ……想像に任せるわ、さあ構えなさい」 「勝負!」  田中のカーチャンが踏み込む。音速の速さで駆け抜けて後藤との距離を詰めるとそのボディに拳を打ち込む。  後藤はそれを片手で受け止めて横へ流す。 「やるようね、後藤大吾」 「本気できなさい、田中のカーチャン」  クイクイと指で挑発を掛ける。すると後藤の背中に炎が集まってソーセージが生まれる。  彼女はチ〇コの生えたクックパッド使いだったのだ。 「いいわ、いでよ! 熱く辛い酢豚(ワンダー・ビクティニ・スブタ)!」 「覚悟しなさい、あたしの股間に生えたソーセージ(オッキイティンポ)を食らわしてあげるわ!!」  酢豚とソーセージがぶつかり合う。その戦いの余波は凄まじく周辺の家々を土台から吹き飛ばす程であった。  そしてしばしの鍔迫り合いの後……。  後藤が膝をついた。 「ふふ、あたしの負けね」 「いいえ、引き分けよ」  見ると田中のカーチャンは身体中にソーセージの油を被って艷めしくなっていた。  それ以上二人は何も言わなかった。ただ心の中で再戦を誓ってその場を後にしたのだった。  これは何処にでも起こっているカーチャン同士の戦い、その一端である。
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