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カエルのお姫様
彼女とは婚活サイトで出会った。お互いに30を目前に迎え、婚期を逃したくない一心で結婚相手を探していた。彼女とは趣味が同じで意気投合し、聡明で笑顔が素敵なところにも惹かれて求婚を申し出た。彼女も俺の真面目で良く働くところを好きになってくれたらしく二つ返事でOKをくれた。出会ってから3か月目のことだった。念願の結婚を果たした俺たちは、昨夜とうとう夫婦になって初めての夜を迎えた。
明け方、まだ暗闇に包まれている部屋で目を覚ます。隣にいる彼女は既に起きていたようで、俺に背を向けてベットに腰を掛けている。俺が起きたことに気がついた彼女は「おはよう。」よりも先にこんなことを言いだした。
「ねぇ、人の言葉を話すカエルに会ったことはある?」
「何の話?」と笑って返そうとした俺を躊躇させたのは、彼女のその空虚な言葉とは裏腹な真剣そのものの声色だった。俺は何か答えなければという義務感に襲われたが、その言葉は本当に俺に向けて発せられた言葉なのだろうか。そこにいるのは彼女と俺だけなのだから、話しかけるとすれば俺しかいないのだか、何故だかそれが俺に向けてのものだとは到底思えなかった。俺が回答を渋っていると、もう一度、彼女が口を開いた。
「私はあるの、人の言葉を話すカエル。見た目は完全に他のカエルと同じなんだけど、綺麗な声をしていて気品のある言葉遣いなの。……まるでどこかの国の王子様みたいな。」
「それって、つまり、カエルの王子様?」
俺は思わず口を挟んだ。これから童話でも聞かされるのだろうか。
「ほら、男の人は何歳まで童貞だと魔法使いになれるだとか、大賢者になれるとか、言うじゃない?それと同じで、いつまでも処女な女には王子様が迎えに来てくれるの。」
「それで、君の元にはカエルの王子様がやってきた、と。」
とりあえず、俺は彼女の話に乗っかる。
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