僕とオオカミどものシェアハウス(ショートショート)

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「ね? ファーストキスはいつ?」 「ふぁ、ふぁ、ファースト?」  僕はいつの間にか廊下の片隅に追い詰められていた。目の前に美人な顔が迫っている。肌が白いし、そこいらへんの女の子より美人さんだけど、歴とした男だ。僕よりも少しだけ背が高いけど、ついてるモノは付いてるし、腹筋だって割れてる。いつ見たのかは聞かないでくれ! 「いつでも関係ないでしょ? リョウさんはいつなんですかっ!」 「僕? んーー、高校1年かな? (かず)は?」  『和』なんて軽々しく呼び捨てにしないで欲しい。でも、この3週間でここの住人が僕をそう呼ぶのにすっかり慣れてしまった。 「ぼ、僕は……。」  つい2日前のことを思い出す。学校の人気のない体育館で、いきなり唇を奪われた。しかも女じゃなくて男だ。よりによって6つも年下の中学生に告白されて、唇を奪われて……。 『()先生、好きなんだ。』  真剣な目。僕より背が小さいくせに、何だか大きく見えた。腕を壁に縫いつけられて、何を言ったら良いか分からずに狼狽えていると、気がついたら唇が塞がれていた。 「ふふっ、思い出してる。僕が上書きしてあげようか?」  あの時と同じような構図。なんで手首を固定するわけ? これじゃあ逃げられないじゃないか。いや、諦めているわけじゃないけど。  気がつくと、リョウの顔が間近に迫っていた。 「や、やだっ!」  経験値が低い僕でも、嫌なものは嫌だっ! この3日間で3人目……。モテ期が来た? いや、リョウは揶揄っているのが明らかだ。首を出来るだけ左に回す。もう少しで壁にチューできそう。僕って前世はフクロウか何かだったの? 「やめろっ!」  いきなりキッチンのドアが開いて、トモが飛び出してきた。トモは食事担当。僕たちの腹をいつも美味しい料理で満たしてくれる。黒髪のイケメン。僕やリョウよりはるかに背が高い。コイツはオオカミ。一見大人しそうに見えるけど、下手したらリョウより酷い。トモは大きな手で、リョウをベリっと引き剥がして、僕から遠ざけてくれた。 「何々? 何かやってる?」  トントンと軽い足音を響かせながら、ユウが階段を降りてきた。今まで寝てたのか、茶髪の髪に手櫛を通しながら。ユウは強いて言えば王子様。白雪姫やシンデレラなんかの童話の挿絵に出てきそうな超美形。  けど、知っている。コイツもやっぱりオオカミだ。一見細身に見えるけど、脱いだら凄いんデスって感じ。何で知ってるかなんて……ここでは言えない。絶対に。 「いや、和があまりにも初心な反応だからさ、つい調子に乗っちゃった。」  長身2人に迫られて、リョウが舌をペロリと出す。かわいこぶっても知っている。リョウも獲物を狙う豹のようにギラギラさせる瞳を持っていることを……。 「大丈夫か?」  黒髪のトモが僕の肩に手を乗せた。途端に体がピクンと反応する。羞恥で顔が熱くなるのが分かった。  2日前から、僕の周りが動き始めた。いや、厳密に言えば3週間前。この3人がいつの間にかシェアハウスに乗り込んできた時からだ。  オオカミ3人に取り囲まれて、これから僕の人生ってどうなるの? 教育実習も後1週間。明日はまたあの子と会う。どんな顔をして会えば良いんだろ。 「だ、大丈夫。」  だと思う……。何だかため息が出そうになって、3人に気づかれないようにそっと息を吐いた。
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