福屋─あなたの死相取り除きます─

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「君との契約を今月いっぱいで切らせてほしい」  未来は、残酷だ。  今から、十分前。石田は社長室に行くようにと課長に言われた。一平社員に社長から直々に呼び出しがかかることは珍しい。自分のデスクに一度戻ると、隣の席で仕事をしていた同期の羽瀬(はせ)が石田の背中を景気よく叩いた。 「おめでとう!」 「なんだよ!? いきなり」 「社長から呼び出しがかかったってことは、【昇給】か【昇格】だろ? いいなぁー、営業成績トップは! どっちに転んでも、お前の奢りで今夜飲みに行こうぜ!」 「そこは、祝う側のお前の奢りだろ。とりあえず、行ってくる」  オフィスを出た石田は、すっかり【昇給】か【昇格】の話だと思い込んでいた。ここ最近、部長から褒められることも多く、石田自身も営業の手ごたえを感じていた。  給料が上がったら……今よりもいい物件に住もう。今住んでいるアパートは家賃が安くていいのだが、夜になると上の住民がギターをかき鳴らし、左隣の部屋からは映画の銃撃シーンさながらのゲーム音が聞こえてくる。困ったことに壁が薄い。次引っ越すときは、壁の厚さにも気をつけよう。  冷蔵庫も新調したい。上京した大学生の頃から使っている冷蔵庫。ここ数年、鳥の叫び声のような音を上げている。いつ壊れてもおかしくない状況だ。一人暮らしだし、そんなに大きな冷蔵庫は必要ないが、今使っているものよりも少しだけ高価なものを買いたい。そんな計画まで立てていたのに……。  突き付けられた現実を受け入れられるはずもなく、石田は吠えた。
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