生き残りかかっておりますし

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生き残りかかっておりますし

「まあ、以前はいくら三時間だけとはいえ夜間外出禁止なんて! って反応が多数だったんですが」  この町に越してくるに当たって、わたし自身、最初にちょっとだけ躊躇したのが、この町内だけで制定されているこの謎の規則だった。  真夜中の二時から五時までの原則外出禁止。急病人などが出た場合などは、必ず所定の「管轄署」なるところへ連絡を入れ、その後救急車を呼ぶこと。病院までその管轄署の人間が同行することを認めること。 「不思議な決まりごとですよね……」 「そうなんですけどね……。こればっかりはお上の決めたことで、私たちにはどうにもしようがなくて。でも、今はなんだかんだ言いながらも町の皆様にご協力いただけるようになって。我々も助かっています」  おかげさまで最近、余計な仕事が減りまして。  そう続けたアイドルさんの言葉に、わたしはちょっと首を傾げた。  不動産屋さんが、夜間外出禁止条例で余計な仕事が減るってどういうことだろう。  そんなわたしの疑問が顔に出ていたのか、彼はにこやかに続けた。 「実はですね。決められた時間外に捨てられたゴミについては、我々が処分しなければいけないことになっておりまして」 「えええ、それって清掃局とかのお仕事じゃないんですか?」 「本来はそのはずなんですけどねえ」  これも決まりごとなので、仕方ないんですけどね。まあ清掃代については町から特別手当としていただいておりますので。空になったコップを片付けながら、アイドルさんは言った。  昼は家を売り、夜はゴミ処分。いつ休めるんだろう……と他人事ながら心配になってしまう。 「……不動産屋さんも大変なんですね」 「まあ、どの業界でもそうかと思いますが、生き残りかかっておりますし。このご時世ですから」
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