消えたアイスクリーム

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 リビングでの出来事から少し経ち、自分の部屋に戻って音楽を聞いていると、扉がおもむろに開く。姿を現したのは弟の碧だった。中の様子を伺うように顔を出した碧は、僕と目が合うと少し目を逸らす。  弟が少しおどおどしているのは見慣れた光景だけど、こうやって向こうから僕の部屋に入って来るのは珍しい。何か話があるのかと思った僕は、碧にそれとなく話を振ってみる。 「どうした碧? なんか用?」  僕が話を促すと碧は少し躊躇う様に視線を床に向けた後、僕の目を見てゆっくりと話し出す。 「さっき真央(まお)姉の怒鳴り声聞こえてきたけど、どういう理由で怒ってたの」  どうやら気になっていたのは真央姉の事らしい。真央姉の怒鳴り声なんて、弟の碧もいつも聞き慣れているだろうに。一々気にしてたら身がもたないと思いつつ、いつもはそんなの気にしていないのになと、疑問が浮かぶ。取り敢えず碧の質問に答える事にした。 「なんかアイスクリームがないーって言って騒いでるよー。まぁ、そのうち怒りも収まると思うけどねー」  僕が姉の怒っている理由を端的に伝えると碧の表情が見るからに曇った。困り顔を浮かべた碧は少し躊躇いがちにゆっくりとした口調で僕に話しかけてくる。 「お兄ちゃん。それ、僕が原因だと思う。アイスクリーム、お姉ちゃんのだって知らずに食べちゃった」 「え? あー、食べちゃったの碧だったのか。なるほどねー」  碧の様子が落ち着かない原因が分かった。姉の怒鳴り声を聞いて、自分のした事に罪悪感を感じていたのだろう。人を怒らせた原因が自分にある時の心の動きは、僕もよく知っている。とにかく気分が悪いものだ。 「お兄ちゃんどうしよう。今すぐ謝った方がいいかな」 「どうだろう? 今はやめといた方がいいんじゃないかな。だいぶお怒りモードだし。食べ物の恨みは恐ろしいって昔から言うしな。下手したら殺されちゃうかも」 「え! そんなに!」  碧の顔が一瞬にして青ざめていく。冷やかしで言ったのだが、どうやら本気にしてしまったみたいだった。すぐさま言葉を撤回する。 「冗談だよ、冗談。そうだ。お兄ちゃんいい方法思いついたぞ。この方法なら碧も怒られる心配がないやつ」    
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