消えたアイスクリーム

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 次の日、お風呂上がりにリビングでくつろぐ姉を見つけた僕は台所に向かって冷凍庫の扉を開ける。中に入っているアイスクリームを取り出して、スマホを見つめている姉の目の前に行くと、アイスクリームを姉の目も前でぶらぶらさせながら質問を投げかける。 「ねぇ、冷凍庫の中にアイスクリーム入ってたんだけど。これお姉ちゃんが無いって言って騒いでたやつと違うの?」  姉は僕の持っているアイスクリームを見ると、目がぱちりと大きく開かれる。信じられないという表情だった。 「ウソ! どこにあったの?」 「冷凍庫の下の方。保冷剤取ろうとしたらあった。お母さんが冷凍食品入れた時に、下の方に潜っていったのかもね」  僕があり得そうな状況を試しに言ってみると、姉は手のひらでこめかみの辺りに手を添える。怒鳴ったのが自分の勘違いかもしれないと分かると、少し気まずい部分もあるのだろう。 「まじかー。じゃあ直人、本当に食べてないのか。悠介(ゆうすけ)この事は直人には内緒にしといて」 「話、全部聞こえてるぞ」  姉が僕に頼み事を言った時には、近くに兄が立っていた。兄の手にはコンビニのレジ袋があり、袋の中身には僕の持っているのとは違うアイスクリームの形が見えていた。  兄はやれやれと言った様子で話し始める。 「結局は姉貴のただの勘違いって事だろう。どうせそんな事だろうと思ったよ」  いつもは嫌味に食ってかかる姉だが、流石に今日の状況で反論する気は起きないと言ったところだろう。  僕はそんな二人の状況を見て兄の持っている袋に対する話を振ることにした。 「お兄ちゃん。その袋に入ってるのってアイスクリーム?」 「ああ、買ってこないとどこかの誰かさんが一生不機嫌なままになるからな」  兄が姉の分のアイスクリームを買ってきた事を知ると、姉はキョトンとした表情をして兄に聞き返す。 「私の分買ってきたの?」 「前に俺が食った分な。これ以上、この事でグチグチ言われるのは面倒だしな。だから受け取っとけ」  兄がレジ袋ごと姉に品物を渡す。姉はそれを受け取ると少し照れ臭そうにしながら小声で呟いた。 「ありがとう」 「どうも。俺は部屋に戻る」  そう言うと兄は階段を上がって自分の部屋に向かう。アイスクリームを受け取った姉は少し機嫌がいいのか笑みが溢れていた。 「あいつにしては気が利くじゃない」  独り言の様に呟いた言葉が僕の耳にも聞こえてきた。実際にはプラスマイナスゼロの筈だけれど、今ここでそれを言うのはあまりにも空気が読めていないので口を噤む。  途中でハプニングが起きたが、作戦が成功したので僕は胸を撫で下ろした。  
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