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消えたアイスクリーム
僕の家は相当騒がしいと思う。他の家と比べてどうなのかは、実際に比較した事がないからわからないけれど、毎日のように喧嘩して大声で話し合う兄弟がいるのはこの家だけなんじゃないかと思う程だ。
僕の年上である兄と姉は高校一年生と高校二年生にもなるのに、些細な事ですぐに口喧嘩になる。前は姉が録画して溜めていたテレビドラマのデータを、空き容量が足りなくなったので兄が消した所、姉が物凄い剣幕で兄に対して激怒していた事があった。
どちらも口が達者だから話し合いは基本、長時間になる。両者とも先に折れるということをしない。二人は相当にプライドが高いみたいだ。特に両者の間では、それは顕著に表れる。
二人が口喧嘩するのはいくらでも構わないけれど、それを聞かされる僕や小学生の碧にとっては堪ったものではなかった。喧嘩するなら会話しなければいいのにと密かに思ってはいるが、この事を本人達に伝えると、火の粉が自分に向かって来そうなので口にはしていない。
その日、僕はリビングでソファーに座り、僕の隣には兄が座っていた。二人でバラエティー番組を観ていると、姉が僕達の前に突如として現れる。仁王立ちした姉はきつい剣幕で兄を見下ろし、刑事ドラマでよくある尋問のような口調で話しかけてきた。
「ねぇ、直人。あんた、私の買っておいたアイス食べたでしょ」
容疑をかけられた兄は肩を竦める。犯人扱いされた事に対する苛立ちからか、眉間に皺が寄っていた。
「そんなん知らねぇよ。証拠もないのに人を犯人扱いするのやめてくれよな」
「実例があるでしょ。前もそう言って知らないふりしてた。それに、食べるとしたらあんた以外考えられない」
確証もないのに決めつけられた兄は、少しだけ目つきが鋭くなる。そして、苦笑いを浮かべると、少し皮肉めいた口調で姉に話し始めた。
「まぁ、良かったじゃねぇか。誰かさんが代わりに食べてくれたお陰で肥満予防になったと思えば。ダイエットするって言って、夜にアイスクリーム食べてる口先だけの人間には最高の出来事だろう」
兄の発言を聞いて姉の目が吊り上がる。姉の身体が小刻みに震えたと思った矢先、姉の怒鳴り声がリビングに響いた。
「やっぱ、あんたじゃない。本当にありえない。ゴミ直人」
姉は怒りの捨てゼリフを吐くと、力強い足取りで二階にある自分の部屋に戻っていく。兄は姉の階段を上がる音が聞こえなくなると、僕に語りかけるようにぼやいた。
「たかだかアイスクリーム一つであそこまで怒るか普通。小学生でもあんなキレかたしねぇぞ。おまけに俺が食った事にされたし。まじであり得ねーわ」
「まぁ、確かに」
僕は兄に同意する様に短く返事をする。姉の怒り方は苛烈だ。でも、兄の煽りも本来は要らないものなので、出来ればそれを控えてもらえれば姉の怒りもあそこまで激しいものになることもなかっただろうなと思う。
僕的にはうるさい喧嘩の原因が二人にそれぞれあるので、自制してもらいたいのが本音だった。
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