君が「ねぇ、覚えてる?」って聞くから、僕は「覚えてないよ」って答える。

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「ねぇ、覚えてる?」 ん?覚えてないよ。 「ウソ。ねぇ、ホタルを見に行ったじゃない?」 そうだったっけ…? そうだったかなぁ。 「そうよ。ちょうどこんな感じの渓谷で、」 そうだったかなあ…、 でもここじゃないよ。 「知ってるわよ、そんなこと。こんな感じの、て言ったじゃない。」 確かにホタルがいそうなとこだけど、こんな高い橋のとこ、来たことないよ。 ほら、水面があんなに下の方だ。 「だからっ。こんな感じの、ていってるでしょ?もう、ほんっとに聞いてないんだから。」 彼女は少し膨れっ面で欄干に上って座ってしまう。 やれやれ。 危ないよ。そんなところに乗ってると。 「みて、下からヒンヤリ風が来る。キモチいいー。」 欄干に座る君は、足をぶらぶらさせている。 ねぇ? ホタルをみる、と蒸し暑い空気て、 セットものなのかな? 「ほら、覚えてるんじゃない。」 と、彼女が笑う。 覚えてないよ。 と、僕も笑う。 「ね、あのホタルを見に行った夜。すごーく蒸し暑かったね。」 だから、覚えてないって。 「ウソつき。」 あはは、ウソついてないよ。 …さ、行くよ? 君も、行こう、ね? 「いやぁだ。」 君は足をぶらぶらさせている。 しょうがないなぁ。 じゃ、押してあげるね。 いくよ? …さん、はぁい、 背中をとんと押してあげる。 彼女はストンと落ちる。 落ちてく。
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