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アイノウタ
お昼ご飯の時間に、食堂でお母さんにメールを打つのが私のひそかな楽しみの一つだ。
「コッコ、メール画面開いて―」
『カシコマリマシタ』
私がそう告げると、目の前にホログラム画面が現れる。指を滑らせる、あるいは言葉にすれば文字を打ちこむことができる仕組みだ。私は周囲にメールの内容を聴かれるのが恥ずかしいので、言葉よりも指で文字を打つことの方が多い。今日の授業では予定外に指名されて焦ったけれど、きちんと答えられて良かったこと。先生に褒めて貰えたこと。そういうことを打ちこんで、最後にお気に入りのヒヨコのスタンプを押すと送信した。
AIである“コッコ”が“送信シマシター”と明るい声で言うのを見送り、私は一息つく。メール画面はまだ閉じない。この時間にメールが来ることをお母さんも分かっているので返信は基本的にすぐに返ってくるからだ。
――あ、飲み物全部飲んじゃった。おかわりしよ。
昔は珍しかったらしいが、今のご時世小学校で本格的な食堂が隣接されているのは珍しくない。私はお母さんが作ってくれたお弁当があるので食事を購入することはないが、食堂のフリードリンクはいつも利用していた。テーブルに設置されたタッチパネルを操作すると、すぐにウェイター役の人型アンドロイドが近づいてくる。
『お客様、ご注文をどうぞ』
「オレンジジュース一つ追加でよろしく」
『畏まりました』
ウェイター役のアンドロイドは、最新型と言われるだけのことがあって人間とさほど変わらない見た目をしている。声の方も、携帯電話やアイパッドの端末を操作するAIと比べるとだいぶ人間の声に近い。有名な声優の声を起用しているともっぱら評判のアンドロイドは、爽やかなイケメンボイスであいさつをすると、人間と変わらぬ足取りで立ち去っていった。
黒い短髪、ぴしっと伸びた背筋、長身に青い目。ああ、あれが人間だったら好みのドストライクだったのに、と思わないでもない。機械は人間が“好ましい”と思えるあらゆる要素を再現できるが、生身の人間は残念ながらそんなことはないからだ。大抵どこかしらに欠点ができる――それが人が人たりうる魅力とも言えるのだけれど。
『今の時代は本当に便利な世の中になったと思う』
以前、お母さんがしみじみと語っていたのを思い出す。
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