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「はっ」
視界が突然、一面見慣れた天井になる。
「いい夢だったな……」
本当に俺は優しくされていたのだと、改めて思う。
幼稚園児の頃、両親が他界した。二人で買い物に行っている間に、交通事故に遭ったらしい。その時たまたま幼馴染の日和と遊んでいた俺は無事だった。そのままばあちゃんが世話をすると言って俺を預かった。なので、物心ついた時から、ばあちゃんと二人きりだった。でも、別にこのことを不幸と思ったことはない。ばあちゃんが優しく育ててくれたのはもちろん、日和の両親……高志おじさんや、春香おばさんが気にかけてくれていた。
だからあの時も、旅行に連れて行ってくれた。
「倫斗! 起きなさい。ご飯できたよ」
「はぁい」
ベッドから降りて、リビングへと行く。
「おはよう~」
「おはよう倫斗」
机の上には、卵焼きと味噌汁とご飯が並べられている。
「じゃあ、いただきます」
椅子に座り、がつがつと食べていく。
「いいね。そうやって元気よく食べてもらえると、私も嬉しい」
「まぁ、元気が取り柄だから」
「私なんて最近買い物に出かけただけで息切れがしちゃって」
「まぁ、ばあちゃんは普段運動してないし、そんなもんだよ」
ご飯を頬張り、水を飲む。
「そうかしら。まぁでも、もっと長生きして、倫斗の結婚式に行きたいなぁ」
「気が早いって」
まだ中一だし彼女もいないのに、何を言ってるんだと笑ってしまう。
「いやいや、そのために頑張らなくちゃって思ってるの。ほら、藤野さんとこのお嬢さんと早く……」
「いや、日和とはそんなじゃないから!」
慌てて否定する。気恥ずかしさからか、頬も火照っていく。
「ふふ。倫斗は面白いねぇ」
「……全然面白くない」
口をとがらせ、残っていた卵焼きを全部頬張った。「あふっ、あふっ」と水を急いで飲む。
「そんなに焦らなくても、誰も取って食べやしないよ」
ばあちゃんはそう言ってカラカラと笑った。
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