憧れは遠い昔

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美智子さんは静かに旦那様と奥様を見る。 この先を話していいか伺っているみたいに。 旦那様は優しく頷いた。 「ファムさんはここへ来て一年が過ぎた頃からまた体調が悪くなりだして、どうやら心臓の方が他の病気のせいで負担がかかり過ぎていて、不整脈や動機に悩まされるようになっていたの。 心臓に関しては、一般的なお薬しかもらえない。 ファムさんはそれでいいと納得していた。 本当だったら、ベトナムでロビンの事だけを想って一人で寂しく死んでしまったかもしれない私が、大好きな日本でたくさんの楽しい思い出を作れた事が幸せでたまらないからって」 美智子さんはあの日を思い出しているのか、大粒の涙が頬を伝う。 「そんな時、大奥様が、ファムさんにカトリックの洗礼の話をし始めた。 大奥様は敬虔なクリスチャンで、大奥様とファムさんが寝泊まりしていた離れにはキリスト様の絵が施された大きなステンドグラスがあって、ファムさんはその絵が大のお気に入りで。 そして、大奥様に連れられて教会へ通うようになって、無宗教だったファムさんは自分の意思で洗礼を受けたの。 とても穏やかな顔に変わったわ… ファムさんを取り巻く苦しみから少しだけ解放されたみたいな」
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