お代がいらない空っぽキャンディ専門店

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 しかし、その人はどうやって食べたらいいのか、分かりませんでした。 「……」  歩きながら考えるか、と言ったその人は、軽やかな足取りで森へ続く無数の道から通りやすそうに真っ直ぐに伸びた未舗装の道を選び、その道を進んでいきました。すたぺた、すたぺた、考えるその人は指で挟んだ頭のないキャンディ棒を揺らしながら、すたぺた、すたぺたとずんずん進みます。 「……」  分かった、と嬉しそうに叫んだその人は、鎖骨の間に棒を突き立てました。  ぐりぐりと、シャツの襟から覗く地肌に棒を押し付けるその人は、骨折り苦労して、やっとキャンディを食べられました。  涙を流して踊り始めたその人は、すたぺた、すたぺた、既に森の中にいる事に気が付きました。 「……」  疲れたなぁ、と呟き、腰を掛けて休めるような椅子が無いか、ときょろきょろ、森を見回します。  何周かその場を回ったころ、森の暗闇の奥に、白い光芒が、幾筋も奔るのが見えました。驚き、反射的に写真を撮ろうとスマートフォンを掲げたその人は、穴の開いた液晶から覗く無数の光条の間に、おあつらえ向きのものを見つけました。
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