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「私は私よ! 命令されて働いていたあの時とは違うわ! それに、あれは私がしたことだけど、お兄様によって仕組まれていたのよ! それを理解しなさい!」
出雲と刺客の間に割り込んだ少女が、屈みながら声を発している。
「誰がお前の言葉などを信じるものか! 俺は王の命を受けてここにいるんだぞ! 責務を果たすまでだ!」
「そう……お父様もグルだったわけね……腐敗が進んでいるようね……」
目元に力を入れた少女は右手に輝いている魔力を凝縮させると、腹部に力を入れて右腕を刺客に向けて突き出した。
「私の魔法を受けなさい! 瞬光!」
その言葉と共に少女の右手から放たれた魔法は刺客の左腕に命中した。
瞬光は凝縮された質量を持つ光を放つ魔法であるので、その攻撃力の高さや直線で進む速度が高いことが有名である。
少女の瞬光を受けた刺客は悲痛な声を上げながら2人から離れると、自身の左腕を触っている。
「お、俺の腕が……俺の腕が……!」
息を荒くしながら今にも取れそうな刺客だったが、おぼつかない足で倒れずにいるようである。
「諦めなさい。私の攻撃によってあなたの左腕は消し飛んだわ。早く国に帰って、お父様に娘は真実を確かめると言っていたと報告をしなさい」
「おめおめと帰れるものか! 俺が殺される!」
「自分が殺されそうになると焦るのか? それは都合が良すぎるんじゃないか?」
舌打ちをしながら周囲を見渡している刺客は右手で持っている剣を床に差して、懐から小さな球体を取り出した。
「俺はすぐに戻って来る! お前を殺しに必ずな!」
その言葉と共に床に小さな球体を床に強く衝突させると、煙幕が辺りに充満し始める。
「逃げるのか!」
「戻ってくると言ったろう! その日まで怯えながら生きているといい……」
その言葉を最後に出雲の部屋から刺客の気配が消えた。
窓に近寄って周囲を見渡した出雲は刺客の姿と気配を感じないことを確認すると、少女に近寄る。
「もう大丈夫みたいだ。突然の戦闘でごめんな」
「謝ることはないわよ。助けてくれてありがとうね」
「俺がしたかったから助けたまでだよ。そこで助けを求めている人を放ってはおけないからね」
「あ! 怪我してたわよね!? 見せて!」
出雲は言われた通りに傷を見せると、少女が女神の癒しと言葉を発した。すると傷口が淡く光り、血が流れて痛みが酷かった傷口が瞬く間に治っていく。
「傷が治った!? 何をしたの!?」
「秘密よ。ま、私の特殊な力だと思ってね。このことは誰にも言わないで」
「わかったよ。秘密にするよ」
どういった特殊な能力なんだと首を傾けて悩んでいる出雲とは違い、少女は発動しちゃったわと何やら後悔をしているようである。
「治してくれてありがとう。とりあえず一旦落ち着こうか。床が傷ついたり天井に穴が開いちゃったけどさ」
「そうね……一気に色々なことがあって疲れちゃったわ」
2人が剣によって傷がついた床に座ると、部屋の扉を強く叩く音が聞こえてくる。
「黒羽さん! 大丈夫ですか!?」
部屋の扉を叩いたのはこの集合住宅の管理人の男性であった。
突然叩かれて声が聞こえたことにより、体をビクっとさせて驚いてしまう。
「だ、大丈夫です! ちょっとおかしな人が襲ってきただけです!」
「おかしな人!? 天井も壊れていると聞いているので入っていいですか!?」
部屋に入ると聞いて、少女を風呂場に急いで移動させた。
「ここにいてね! 絶対に動かないでよ!」
「わ、わかったわ……」
困惑している少女を風呂場に置いて、部屋の扉を開けた。
「入りますね……こ、これは何があったんですか!? 部屋中が傷だらけで床も抉れて、天井は魔法を使ったんですか!?」
「い、いや、なんか剣を持って暴れ出して、魔法を打たれたんで上に飛ばしました……」
説明をしていくと管理人の男性は口を開けて驚いているようであった。
次第に反応をしなくなると、直しましょうと小さく呟き始める。管理人の男性は出雲の方に振り向くと、明日には一度退去してくださいと話しかける。
「修理をしますので、明日の朝に一度退去をしてください。別の家はありませんが、修理をしなくてはならないので急ですがお願いします」
「わ、わかりました……準備をしておきます……」
出雲の返事を聞いた管理人の男性は部屋から出て行った。
少女は管理人の男性が出て行く音を聞くと、風呂場から出て来て出雲に話しかける。
「大変なことになったわね……なんかごめんなさいね」
「いや、君が気にすることはないよ。ほとんど何も置いてない部屋だからすぐ準備が終わるし、当てはあるからさ。だから気にしなくていいよ」
「ありがとう……」
さてどうするかと言葉を発すると、少女が疲れたから寝たいわと大欠伸をしながら目を擦っている姿が目に入る。
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