第1話 天使が微笑むその先

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「まさかパンをもらえるなんてな。あそこのパン屋は本当に美味しいんだよなー。毎日食べたくなるくらいだ」  もらったクロワッサンを食べながら歩いていると、ふと近道をしようと思った。 「そうだ。こっちの裏路地を進めば近道だな。今日は疲れたからこっちから行くか。裏道は薄暗いから気を付けて歩かないとな」  家と家の間の狭い路地を進むと違う区画にすんなりと出れるので重宝している道の1つである。  ちなみに、本来の道を進むと遠回りをしなければならないがこの裏路地を進むと数分で家のある区画に到着するのである。 「今日は手ぶらだったからすんなりこの道を通れるな。もしリュックサックや剣を持っていたらキツイだろうな」  よかったよかったと言いながら狭い道を進んでいると、薄暗い通路の先でドサッという誰かが倒れたであろう音が聞こえた。 「な、なんだ!? 何が起きた!?」  突然発生した音に驚きながらも歩く速度を速めると、目線の先に地面に倒れている人の姿が見えた。 「ひ、人が倒れてる!? 何があったんだ!?」  静かに近づくとうつ伏せに倒れている姿が見えた。  足首まである長いワンピースにも見える1枚布の服を着ており、頭部にはフードを被っているようで性別の判断が付かない。どうしようかと悩んでいると、とりあえず肩を揺すって起こすことにした。 「ちょっと! 大丈夫ですか!? 何かあったんですか!?」  何度か倒れている人の肩を揺らすと、小さな声で呻き声が聞こえてくる。  助けてと発しているその声は澄んだ声色をしており、聞いていると心が落ち着くと出雲は感じていた。 「声からして女性か?」  呻き声を聞きながら女性の体を掴んで起こした瞬間、フードがはらりと取れた。するとそこには出雲と同い年に見える少女がいた。  少女は銀色の髪色で長髪をしており、誰が見ても可愛いと思える顔をしていた。 (か、可愛い……こんなに可愛い女の子は初めて見たぞ……)  出雲はその少女を見た瞬間に心臓の鼓動が跳ね上がった。  絹のようなしなやかな髪がサラリと左右に別れると、少女の綺麗な空色の瞳と白い肌が露わになる。 「綺麗だな……お人形みたいだ……」  少女を見て思ったことが自然と口から出た。  数秒間見惚れていると、助けるために近寄ったことを思い出した。 「そうだ! 助けないと!」  倒れている少女の体をさらに揺らすと、お腹が空いたと小さな声で呟いていた。 「お腹が空いた!? 嘘でしょう!?」  深刻なことが起きたのかと思っていた出雲は、まさかの空腹で倒れていたと判明をして落胆をしてしまった。
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