第1話 天使が微笑むその先

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「お腹が空いているの?」  そう話しかけると、少女は小さく頷いた。 「立てる?」 「ギリギリ立てます……」  少女は出雲の肩を掴んで辛くも立ち上がることが出来た。  立ち上がったその足は微かに震えており、かなりの空腹であることが一目で理解出来た。 「こっちに行けば商店街があるから、一緒に行こう!」 「ありがとうございます……」  振るえる足取りで自身の肩を掴ませて歩き始め、転ばせないように気を付けながら来た道を戻っていく。 「もう少しで商店街に到着するからね! 我慢して!」  何度話しかけても返事はない。  お腹が減りすぎて喋る体力もないのだろうか。戻る道の途中で少女は歩けなくなってしまった。 「大丈夫か!?」 「もう歩けないわ……ごめんなさい……」 「俺が背負っていくからね? それでいい?」 「任せるわ……動けなくてごめんなさい……」  気にしなくていいよと言いながら、出雲は少女を背負うことにした。  すると、背中に大きくて柔らかい何かが当たった気がした。 「こ、これは……もしかして……」  背中の気持ちの良い柔らかい何かを感じながら来た道を戻る。  落とさないよに小走りで商店街に向かうと、先ほどパンをもらったパン屋に到着をした。 「着いたよ! ここでパンをもらえるから!」  そう言いながら少女をゆっくり背中から下ろすと、周囲の人達が何が起きたんだと注目し始めてしまう。  夕食の時間が迫っている時刻なので、商店街には多数の人達が歩いていたためである。 「ヤベ! 周りの人達が見始めてきた!」  野次馬が形成されそうになると、出雲はパン屋の店主のことを呼び始めた。 「すみませーん! おやっさん!」  何度かパン屋の店主を呼ぶと、背後を向きながら何だと言葉を発した。 「さっき帰ったばかりじゃねえか。まだ何か用があったのか?」 「ちょっと、この子にパンを食べさせてあげて! 凄い空腹みたいで今にも倒れそうなんだ! ていうか、もう倒れてた!」  出雲の言葉を聞いたパン屋の店主は、今にも倒れそうな少女の顔を見た。 「凄いべっぴんさんじゃねえか。金はあるのか?」  そう言われた出雲はポケットを漁ると、そこには小銭しか入っていなかった。 「小銭しかないです……」 「はぁ……お前のツケにしといてやるから、明日には金を持って来いよ!」 「ありがとうおやっさん!」  パン屋の店主はクロワッサンにウィンナーパンなど、多数のパンを少女に手渡した。すると少女は美味しいと言いながらもらったパンを食べ始める。 「ほら、見世物じゃないから見ないで! ただお腹が空いているだけだから!」  出雲の言葉を聞いた周囲の人達が、蜘蛛の子を散らすようにその場から離れていく。 「ごめん! ありがとう!」 「こいつも持ってけ。飲み物を買う金もないだろう?」  パン屋の店主が笑いながらカップに入っているお茶を手渡すと、出雲はありがとうと返事を返した。
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