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「あ、ありがとうございます……ちょうど何か飲みたかったんです……」
パン屋の店主に一礼をして感謝の言葉を口にすると、少女は一気にお茶を飲み干した。
「おいおい、一気に飲んだら咽ちゃうよ」
「だいじょうぶへぇ!? ゴホゴホ!」
「ほら、言わんこっちゃない」
ズボンをまさぐってハンカチを探すが見つからない。
仕方なくパン屋の店主に口を拭く紙などがないか聞くと、仕方ねえなと言いながら1枚の紙をもらった。
「これで拭きな。おやっさんありがとな!」
「良いってことよ。そちらのお嬢さんがお得意様になってくれればいいさ」
「美味しいパンをありがとうございます。また買いに来ます!」
「お金はあるのか?」
「ないですけど……」
頬を膨らませながら少女は数回出雲の左肩を叩く。
痛い痛いと言いながら叩いていた腕を掴むと、少女は右足で出雲の左足の脛を蹴り始めた。
「だから痛いって!? お金があるか突っ込んだから怒ったの!?」
「お金ならあるもん! 今はないけど、そのうち手に入れるから!」
そう言いながら少女は歩き始めた。
どこに向かうのか見当がつかないため、少女を呼び止めてどこに行こうとしているのか聞くことにした。
「どこか行くのか?」
「行く当てはありません……」
俯いてどこも行く当てがないと呟いた少女。
出雲はここまで関わってしまった以上、何かをしてあげたいと思っていた。だが、どうすればいいのか考えはまとまっていなかった。
「お前の家は1人にしちゃ広いだろ? そこに住まわせてあげればいいじゃねえか」
「俺の家ですか!? 確かに1人には広い部屋ですけど、色々と物が置いてあるので意外と狭いですよ?」
「お前はあまり物を捨てないからな。ま、整理整頓をするんだな」
「へーい……」
肩を落としてどうするかと悩んでいると、出雲の肩に少女が手を置いた。
「私も協力するから、片付けましょう?」
「おお……女神か……」
女神。
その言葉を聞いた少女は、そんな存在じゃないわよと地面に目線を向けながら否定をした。
「そうか。じゃ、俺の家に行くか? とりあえずはゆっくりできると思うぞ」
「お言葉に甘えるわ。空腹ではなくなったけど、疲れが出てきたわ……」
「忙しいね。布団とかあるから今日はすぐ寝た方がいいよ。さ、案内をするね」
「ありがとう……とりあえず厄介になるわ。一緒にいるからって変なことをしないでね」
「そ、そんなことしないよ! 何かしたらおやっさんに殺されちまう!」
パン屋の店主の目は娘を見送るかのような、父親めいた視線を出雲に向けていた。その視線を感じ取ると、一気に体中に鳥肌が立ってしまう。
「目の黒いうちは変なことさせねえよ。安心しな」
「ありがとうございます! 安心します!」
「俺じゃ安心しないのかよ……」
(でも、どうしてあそこに倒れていたんだ? 髪色は銀髪だし、この辺りの人ではなさそうだけど?)
まだ名前を知らない少女のことを不思議に思いながら、監視をするつもりで家に泊めることを了承していた。
これからどう動くのか少女の動向を見つつ、配達所の所長に報告をしようと考えていたのである。
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