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「いつまでもここにいないでさっさと家に帰れ。商売の邪魔だぞ」
「悪いなおやっさん。また来るよ」
「ありがとうございます」
「おう! 気を付けてな!」
パン屋の店主に挨拶をすると、出雲は少女を連れて自身の家に向かうことにした。1人でいた時とは違い、裏路地を通らずに正規のルートで家に向かう。 また変なことに巻き込まれるのはごめんだったので、慎重に周囲を警戒しながら歩き続ける。
(しかしどうしてあそこに倒れていたんだ? 何かに巻き込まれていたのか、何かから逃げていたのか?)
自身の右隣を歩く少女を見ながら様々なことを考えていた。
どこかの上流階級の娘で家から逃げてきたことや、どこかの町が襲われてこの国にまで逃げ延びたか、いくら悩んでも答えは一向に出ない。
「あ、この角を曲がった先にある集合住宅の一室が俺の部屋だよ」
「へー! 結構大きな建物に住んでいるのね!」
「集合住宅って聞いたことない?」
「う~ん……初めて聞くかなー。私のいた場所は平屋の建物ばかりだったからねー」
何の歌か判別がつかない鼻歌を歌いながら少女は集合住宅への道を歩く。
道中、何もなく歩くことが出来たので安堵をしていると、家である集合住宅に到着をした。その集合住宅は木製であり、地上5階建てとして建設をされている。
「この建物の5階の角部屋が俺の部屋だよ。階段があるから行こう」
「はーい」
出雲が先に階段を上がっていくと、その後ろから少女がカンカンとリズムよく階段を上がっている。
「どんな部屋なのかしら。楽しみだわー」
「そんなに期待をしないでいいから。普通の部屋だよ」
階段を上り終えて5階に到着をすると、角を目指して歩く。
「さ、ここが俺の部屋だよ。あまり期待をしないでな」
「ふふふ。それはどうでしょうね!」
ニヒルな笑顔を浮かべながら少女は出雲が扉を開けるのを待っていた。
「入って入って。ここが俺の部屋だよ」
「お邪魔しまーす」
その言葉と共に少女が部屋の中に入る。
出雲の部屋に入った少女は、まず散らかって横倒しになっている靴が目に入る。次に衣服がリビングに繋がっている廊下に置かれており、かなり散らかっている部屋だとの印象を受けているようだった。
「これは凄い部屋ね。散らかりすぎているわ!」
「そうか? そうとは思えないけど?」
キョトンとした顔をしている出雲とは違い、少女は眉間に皺を寄せてどうしましょうかと何やら呟いているようである。
「とりあえず上がらせてもらうわね」
「どうぞどうぞ」
履いている茶色いボロボロの靴を揃えて少女は部屋に上がる。
出雲は丁寧に靴を揃えている姿を見て、揃える必要はないのにと考えていた。
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