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「お前、ただの人間じゃないな? 何者だ?」
何者と聞いた出雲は小さく微笑すると、刺客の攻撃を防ぎながらただの配達士だと言った。
「配達士だと? なんだそれは!」
「知らないのか? 配達士は騎士と同じく、国を支えている仕事だ! 舐めたら痛い目を見るぞ!」
鍔迫り合いながら刺客に舐めるなと言うと、出雲は右手に燃える球体を作り出していた。
「もっと周囲を見るべきだったな」
「なんだと!?」
気が付いた時には既に刺客が攻撃を避ける時間はなかった。
出雲の作り出した燃える球体が刺客の腹部に衝突すると、耳を劈く爆音と共に窓に向かって吹き飛ぶ。
「ぐふぅ……まさか目標を目の前にして邪魔をされるとは……」
「俺だって伊達に戦場に出ていないぞ。だから言ったろ? 配達士を舐めるなって」
刺客から視線を逸らさずにいると、ゴソゴソと懐をまさぐっていることに気が付いた。
「何をしようとしている! もう何もさせないぞ!」
「気が付いたか……だがもう遅い! あの女は死ぬ運命だ!」
刺客が懐から出したのは短剣であった。投げられた短剣は部屋の入り口にいる少女の胸部に突き刺さる軌道であり、すぐに対処をしなければいけない速度である。
(どうする! どうすればあの短剣を防げる!?)
思考を巡らすも答えは一向に出ない。
早く動かなければ美桜が死んでしまうのだが、どうすればいいのか考えていて体が動かない。
「これしかないか!」
これしかないと声を上げた出雲は短剣の前に躍り出て、自身の体で受け止めた。その姿を見た刺客は目を見開いて驚いてしまう。
「な……なんだと……身を挺して守る価値がその女にあるのか!?」
腹部を抑えながら立ち上がる刺客は胸に短剣が刺さり、口から血を流している出雲に対して叫ぶ。
血を流しながら何度か咳き込んでいる出雲は、刺客の声を聞いて価値かと小さく声を発する。
「人の価値を他人が勝手に決めるなよ! 他人が価値を決めていいわけないだろ! 人は人だ! 自分の価値は自分自身で決めるんだ!」
叫びながら胸に刺さっている短剣を勢いよく抜いて床に投げ捨てる。そして、剣を握り締めながら刺客との距離を詰める。
「どんなことがあったか知らないけど、ここまで来て殺そうとしているお前が悪だ!」
「俺は悪じゃない! 国を滅ぼす寸前まで追い込んだあの女の方が悪だ!」
2人の剣が重い金属音を上げながら鍔ぜり合う。
お互いがお互いの目を見ながら力強く剣を押し込んでいる。どちらかが力を緩めたら一方が死ぬ瞬間が訪れていた。
窓の外から聞こえる楽しそうな笑い声が響く部屋の中に、2人の重い金属音が響き渡り、窓を境に生と死が重なっていた。
流れる汗や殺意が部屋中を駆け巡っていると、少女が2人の間に身体を捻じ込んで何かをしようとする。
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