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「ただいま」
玄関を開けるなり、廊下の奥からはツンと酸っぱくてスパイシーな香りが漂ってくる。
「おかえり。今日カレー」
「また?」
荷物を適当に玄関を上がったところに下ろす。リビングの扉は開けずに洗面所に入り、顔と手を洗ってうがいをした。少し開いたリビングの扉の向こうから、母さんのぼんやりした声が聞こえてくる。
「またって何。嫌なの?」
「カレーがまた?じゃなくて、母さんそんなかに酢入れるじゃん」
「美味しいよ」
「酸っぱいよ。あとから自分の皿にだけかければいいのに」
「カレーのお酢は美帆も好きよ」
「嫌いだってば。何回言ったらわかってくれんの」
途中から会話に参戦した姉は、俺が階段に足を掛けるのを少し開いたリビングの扉の隙間から見て、「どこ行くの?」と聞いた。
「レポート」
「今?カレーは?」
「あとで食べる。チンしないでって言っといて」
はあい、と間延びした声が届いた。
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