1.お一人さま

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教室はほんの一瞬静まった。 が、次の瞬間、遅刻派は黒板の前に仁王立ちする教師の姿に気が付いた。彼らがさすがに焦りを浮かべて、駆け足で自席に戻って慌ただしく着席する音が教室に響く。 ひとしきり教室中を見廻していた海野先生は、やっと静寂が訪れたことを確認してから、華奢な腕時計を見遣る仕草をする。 「遅い。なんでこんなに遅れたの」 怒るわけではないが、静かな声で問う表情は怪訝そうだ。 肩までかかる髪、最近伸びぎみ。 「国見先生はあんまり怒らない先生だから。しかも、来るのがちょっと遅れるんです」 木村という、このクラスの室長の女子が呟く。遅刻派はきまり悪そうに小突き合った。 「何も言わない先生の授業なら、遅刻しても何してもいいの?」 沈黙。 いつもはうるさいF組から何も言葉が返ってこないことを反省の色と受け取ったのか、海野先生はしばらく無言で教室中をもう一度見廻した後、トンと教卓を叩いた。 「国見先生が今日は出張なので、急遽私がこの時間を受け持ちます。やることは」 「自習?自習??」 「……で、いいです。本当はプリント用意したんだけど、やることある人はそっちやってもらって構いません。ゲームは論外」 二度目の沈黙に、爽やかな微笑。
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