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教室はほんの一瞬静まった。
が、次の瞬間、遅刻派は黒板の前に仁王立ちする教師の姿に気が付いた。彼らがさすがに焦りを浮かべて、駆け足で自席に戻って慌ただしく着席する音が教室に響く。
ひとしきり教室中を見廻していた海野先生は、やっと静寂が訪れたことを確認してから、華奢な腕時計を見遣る仕草をする。
「遅い。なんでこんなに遅れたの」
怒るわけではないが、静かな声で問う表情は怪訝そうだ。
肩までかかる髪、最近伸びぎみ。
「国見先生はあんまり怒らない先生だから。しかも、来るのがちょっと遅れるんです」
木村という、このクラスの室長の女子が呟く。遅刻派はきまり悪そうに小突き合った。
「何も言わない先生の授業なら、遅刻しても何してもいいの?」
沈黙。
いつもはうるさいF組から何も言葉が返ってこないことを反省の色と受け取ったのか、海野先生はしばらく無言で教室中をもう一度見廻した後、トンと教卓を叩いた。
「国見先生が今日は出張なので、急遽私がこの時間を受け持ちます。やることは」
「自習?自習??」
「……で、いいです。本当はプリント用意したんだけど、やることある人はそっちやってもらって構いません。ゲームは論外」
二度目の沈黙に、爽やかな微笑。
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