感謝と贖罪

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「山田さん、大変。お母さんが事故に遭ったって今連絡が!」 部活が終わり、陸上部員が帰り支度をする部室に、先生が走りこんできた。 その言葉を、私はすぐには理解できなかった。 頭が真っ白になって、手に持った荷物がどさどさと鈍い音を立てて床に落ちた。 連絡を受けた私は、先生の車で急いで病院に向かった。 病院に着くと、母の顔にはもう白い布がかけられていた。 ベッドの傍らには最後に母が持っていたという買い物袋が置かれていた。 中にはひき肉と玉ねぎ、私の大好物であるハンバーグの材料が入っていた。 5月9日16時、ご臨終です。 傍らに立つ医者の無情な言葉が空虚に響いた。 奇しくもその日は母の日だった。 「毎朝お弁当を作ってくれてありがとう。」 「夜遅く勉強している私に、そっと一杯のココアを入れてくれてありがとう。」 「部活で汚れた私の体操着を、嫌な顔一つせず手洗いで洗濯してくれてありがとう。」 言えなかったたくさんの「ありがとう」が、行き場をなくして私の胸の中をさまよった。
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