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<午前十一時半>
J Smile Cafeで一時間ほどダラダラとした男は、一度自宅に戻り布団に潜り込んだ。
オナニーの後でうとうととし、再び目を覚ましたのは十一時半を過ぎた頃である。昼飯時が近いなと、芋虫のようもそもそと起き上がった。
今日は男の誕生日である。
奮発して外食にしようと、彼は電車で所沢駅へと向かった。
目指すは駅前「プロペ通り」を抜けた先にある、かつてダイエーやイオンだった建物である。数ヶ月前に念願の回転寿司店が出来たのだ。駅から徒歩圏内にあるゆえ、仕事を頑張ったときなどのご褒美として、ちょくちょく通っている。一人客にもテーブル席を案内してくれるので、落ち着いて食べたい彼にとってはありがたいのだ。ちなみにここでもよく子供に「出たな悪者め!」と成敗される。
えびアボカド、生しらす軍艦、えんがわといった定番の寿司やとんこつラーメン、いちごパフェをたらふく食べた男は、会計金額にちょっぴりビビりながらもまあいいか、誕生日だしと店を後にした。
彼が次に向かったのは所沢駅前の西武所沢SCである。池袋にある西武百貨店の所沢版なのだが、大都会と異なり適度に庶民的だ。リニューアル後は一階がフードコートと菓子店になったので、より庶民派になった。何故かフードコートのすぐ隣に宝石店があるが。
男のお気に入りはなんといってもタピオカドリンク店「TEA18(ティーエイティーン)」である。台湾紅茶「紅玉」=台茶18号が店名の由来なだけあり、台湾茶が売りの店だ。お茶自体の味がしっかりしていて飲みごたえがあり、タピオカをトッピングしてもワンコインでお釣りがくるので、仕事の後によく一杯やっている。
若い女性やカップルに混ざって並ぶのは、未だに慣れない男であった。所沢駅ビル内にもある有名チェーン・ゴンチャに比べれば人数も雰囲気も穏やかだが、大柄・弁髪・顔面凶器というよくばりセットなのである。間違えて渋谷のクラブに来てしまったメタルバンドマン並みに、目立つものは目立つ。
だが、所沢という街は不思議なもので、目立つ人間でも「悪目立ち」はしない。他の地域から引っ越してくる人間も多く、大都会(植民地)との行き来もあるからだろうか。今も男を見てあからさまにギョッとしたり、陰口を叩く人間は見当たらない。
「東方美人ミルクティーください。甘さ半糖、氷なし、無料トッピングはタピオカで」
大人気映画『鬼●の刃 無限●車編』に出てくる鬼の髪色とよく似たカップとストローのタピオカドリンクを受け取った男は、ウキウキとフードコート「とこうまキッチン」の椅子に腰掛けた。
スマホを無料Wi-Fiに接続し、タピオカの写真を撮ってTwitterに投稿する。
モテないからタピオカ飲むわ
#東方美人ミルクティータピオカ
#うんまい
#鬼●のアレに似ている
ふと、そういえば鬼●はパロディAVを観たなあと思い出す男であった。日課であるエロサイト「BENZA」のチェックをしていたときに発見し、女優陣のコスプレのクオリティ高さに思わず観てしまったのである。その後、AVをより理解したいと本家鬼●の映画を観たり原作漫画を読んだりした。映画のノベライズ版も購入し、大いに刺激を受けたものである。
そう。
この鋼鉄之顔面凶器童貞、なんと。
(エロ)小説書きでもあるのだ!
(悠愛は恥ずかしそうに微笑んで俺を見つめた。タピオカのようにぷっくりとした桜色の頂が、豊かな果肉の上で主張している。「タピオカより貴方を吸いたい……」彼女はおれの極太ストローをくわえ込んだ。)
「よし、イケる!」
とこうまキッチンのテーブルは飲食専用、ゲームや読書での長時間の利用はNGである。
男は小説書き御用達のデジタルメモ「ポメラ」に浮かんだ文章を打ち込み、席を立った。わけだが。
「ぐおおおおおお」
股間をテーブルの角にぶつけた。
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