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教室に戻った私は、目を疑った。神堂が伊原の前の席に腰掛け、親しげに話しているからだ。さっき神堂が言っていた、たった一人の友達というのが、まさか伊原のことだとは思わなかった。
二人の様子をまじまじと見つめていると、伊原がこちらに気付き、小さく手招きした。そして、神堂に私を"友達"だと紹介した。
「げっ、さっきの失礼な奴……」
神堂は不愉快そうにこちらを見た。
「先程はすみませんでした……」
「別にもういいけど、蛍くん、彼女はホントに君の友達なの?」
警戒する様子の神堂を見て、私は内心ハラハラしていた。神堂は別のクラスだから、多香子たちとの接点はないはずだ。罰ゲームのことは知る由も無いだろう。けれど、彼の目は何もかも見透かしているような気がした。
「友達だよ」
伊原は昼食のパンを頬張りながら答えた。
「ふーん……何を企んでるのか知らないけど、蛍くんを傷付けたら許さないから」
「いや、大丈夫だよ」
神堂を嗜めるようにそう返す伊原に、胸がズキズキと痛んだ。
「あー、そろそろ教室戻らなきゃ」
神堂が名残惜しそうに立ち上がった。
「そっちのクラス、担任タナ先だっけ?」
「そうそう、もう嫌んなるよ」
タナ先……? 聞き慣れない単語を聞き返すと、伊原は「俺らの一年のときの担任。スゲー怖いんだよな」と言い、神堂と顔を見合わせて笑った。その笑顔に、なんだか胸が締め付けられた。
たまたま、このクラスに馴染めなかっただけで、伊原にはちゃんと友達がいるんだ。伊原は、普通の男の子だ。バイトして、家では妹の面倒を見て、テストの点は普通に悪い。みんなが好きな音楽を聴いて、みんなが好きな漫画を読む。
どこにでもいる普通の男の子だった。運悪く、ゲームのターゲットにされるまでは。
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