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多香子に言われるがまま伊原の席に向かい、真正面に立った。伊原は私の気配に気付かず、イヤホンを付けたまま机に突っ伏している。
「肩叩いて、声かけて!」
遥が大袈裟なジェスチャーをし、若葉は同情に満ちた視線をこちらに向ける。半ばやけくそになって肩を叩くと、彼は怠そうに顔を上げた。
柔らかな黒髪が目を覆っている。彼は私の顔を一瞥した後、再び机に突っ伏した。
「ちょ、ちょっと……」
私は戸惑った。このままじゃ、多香子たちの反感を買ってしまう。指示を求めるように、彼女の方を見た。
「なな、もう一回! ファイト!」
多香子の無責任な声援に返事をする余裕などなく、もう一度、伊原の肩を強めに叩いた。
「あ、あの! 伊原!」
「……」
あまりの反応の無さに焦り、思わず伊原の両耳からイヤホンを抜き取ると、彼は「なにすんだよ……」と、心底面倒臭そうな顔をした。
「い、伊原! 私と友達になってよ」
訝しげな顔をする彼に、泣きそうになりながら「やっぱだめかな……」と呟いた。奪い取ったイヤホンから、微かに優しげなピアノの音が聴こえる。
伊原は私をじっと見つめた後、乱暴にイヤホンを取り返し、「いいよ」とぶっきらぼうに言い放った。
またしても机に顔を伏せる伊原をよそ目に、私は最初のミッションを達成できたことに、胸を撫で下ろした。だけど同時に、伊原と友達になったことがこれからどういう未来を引き起こすのか、不安だった。
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