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伊原の小さな返事は、多香子たちには届かなかったようだ。しかし、私の表情を見て悟ったのだろう。遥が「やったじゃん!」と背中を叩いた。
そこで、授業開始を告げるチャイムが鳴った。自席に戻って気持ちを切り替え、教科書とノートを取り出した。
そういえば、伊原は授業が始まったことに気付けたのだろうか。知らせてくれるような友達なんて、きっと一人もいないだろう。こっそり後ろを振り返ると、彼は意外にも真面目な顔をして授業を聞いていた。
……今までは、気にも留めない存在だったのに。これも"友達になった"効果なのだろうか。なんて馬鹿馬鹿しい。
✳︎✳︎✳︎
授業が終わった後は、誰とも話す気になれなかった。次のチャイムが鳴るギリギリまで、廊下の窓から外を眺めて時間を潰した。
「なあ」
「うわっ……びっくりした。どうしたの……?」
突然、背後から声を掛けてきたのは伊原だった。私は、二人で話しているところを多香子たちに見つからないことを祈った。見つかったらきっと、冷やかされるに決まっている。
「もうチャイム鳴るよ」
「ありがとう……。先に戻っていいよ」
二人で教室に戻ると、何を言われるか分からない。だけど、もしかしたら伊原は、友達になった私を授業に遅れないように呼びに来てくれたのかもしれない。
言われた通り素直に先に戻る彼の背中を見て、少しだけ胸が痛んだ。
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