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いつしか、休憩時間を心待ちにしている自分がいることに気付いた。それと同時に、伊原を騙し続けている罪悪感が膨らんでいくのを感じていた。
だけど、私の進捗報告を上機嫌で聞く多香子を見て、その感情に蓋をした。グループに居座り続けるには、このゲームを続けなければならない。私が彼女に提供できる娯楽はこれだけなのだ。
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「夏休み、伊原は予備校とか行くの?」
気怠そうに団扇を仰ぐ伊原に尋ねた。長い前髪が風に煽られ、切長の目が見え隠れする。
「俺、高校卒業したら働くんだ。将来、妹には大学に行ってほしいからね」
「え! 伊原、妹いたの?」
「うん。母さんと小学生の妹と三人暮らし」
授業が始まるからと呼びに来てくれたり、意外と聞き上手だったり、世話焼きな一面が垣間見えるのは妹がいるからなのか。妙に納得した。
「そうなんだ……伊原はえらいね。私はなんの目的もなく進学しようと思ってるよ。学生でいられる期間を少しでも延長したいとか、そんな理由で」
「でも、受験勉強頑張ってるだろ。十分立派だよ。目的は大学で見つかるんじゃない?」
これまで伊原と一緒にいて、分かったこと。彼は絶対に私のことを否定しない。今まで人から軽んじられることばかりだった自分にとって、それはとても新鮮で、心がじんわりと温かくなった。
伊原と友達になって、1ヶ月少しが経過していた。
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