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ああ、またか……ため息が知恵の口から溢れ出た。
知恵の息子のリュウが、勝手に家を出て行った。彼はまだ三歳で、言葉もろくにしゃべれないというのに。
それは知恵が朝慌てて出かけた時のまま荒れ放題になっていたリビングで、ほんの少し休もうとソファーに腰を下ろしたばかりのことだった。
すぐに追いかけていかないとまずい。
頭では分かっているけど体が重かった。
あと一分だけ。
どうせそんなに遠くには行っていない。またいつもの裏のおばあちゃん家のお庭で遊んでいるんだろう。
心配することはないとささやく内なる悪魔の声に首を振り、知恵は再び腰を上げた。
──上村さんはいいお母さんですね。
たんぽぽ園の支援員に言われた言葉が知恵の頭に蘇る。
いいお母さんって何だろう。
私のどこが、と思う。
私はすぐにゴロゴロしたがるダメな母親だ。
どうして私のように立派じゃない親のところに、あの子が生まれたんだろうと自問自答しない日はない。
リュウ。
あの子はどこへ行ったんだろう。
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