<12月12日>七海に下心がばれる

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<12月12日>七海に下心がばれる

 #昨日は口惜しくて眠れなかった。キスまでは成功したものの、その後の詰めが甘かった。七海は俺の手中に落ちたと思い込み、帰りの車の中でボディタッチをしながら余計な会話をしてしまった。それから彼女の態度が変わり始めた。  キスは初めてだったのか、男女交際の経験はあるのかなどと訊いた上に、自分の恋愛経験まで話すべきではなかった。さらに調子に乗って、「キスしたら、震えていて可愛かったよ!」と言った時には、彼女の顔色が変わっていた。そして、彼女が書いた小説の中の女の子について、金澤と付き合ってた子ではないのかとか、金澤がその子と夏休みにした事とかをしゃべってしまった。彼女の怒りが伝わってきて、弁解しても取り返しがつかなかった。静岡インターを出て、ラブホテルに連れ込もうと考えていたが、とてもそんな雰囲気ではなくなっていた。  近隣の商店街の駐車場に車を入れて、まだ諦め切れずにいた俺は、次の策を練っていた。高校の友だちがスナックで働いており、そこにはいかがわしい部屋があると聞いていた。そこに七海を連れ込んで、強引にでもやってやろうと考えていた。彼女を説得して引きずるように歩いていると、彼女の知り合いだという図体の大きな男が現れて邪魔をされた。 金澤にやり損なったとメールすると、まだこれからチャンスはあると励まされたが、彼女との関係はもうすでに終わっていた。#  車が動き出してから二人とも無口になっていたが、東名高速に入る頃には再び会話を交わすようになっていた。加えて紺野は、運転しながら七海の手を握ったり、髪の毛をいじったり、肩や腿にまで触れて、慣れなれしく振舞っていた。朝と様子が違う彼の言動に、七海は不信感を覚えていた。 ☆七海☆私とキスした事で、彼の態度が変わった。やたらと触ってきて、何だか怖い気がする。話しの内容も恋愛の経験やキスの事ばかりで、私をこの後どうにかしようという下心が見え透いている。中学の時の事を口にしてしまい、「その彼とはどういう付き合いで、どこまで行ったの?」と興味本位で聞かれた時には、虫唾が走った。同時に千宙の事が脳裡に浮かび、初めてのキスの感動は早くも後悔に変わっていた。☆☆☆☆☆  紺野は会話の流れの中で、友人の金澤の事を話した。 「金澤と付き合ってた女の子、七海の友だちだよね。夏休みにその子が東京に会いに来て、金澤の部屋でしたんでしょ!聞いてないの?」  七海は驚きというより、花織(かおり)の事が頭に浮かびショックだった。 「男の人は、そういうことを自慢話みたいに言い触らすんですか?わたしとキスしたことも、報告するんですか?最低ですね!」と紺野を攻撃した。 ☆七海☆この人は変だし、どうかしている。私もこんな人にファーストキスを奪われて、どうかしていた。初めては千宙としたいという約束も、私の浅はかな行動で反故にしてしまった。今となっては取り返しが付かないが、キスされた時に女になっていた私が怖い。紺野の誘いにひょいひょいと乗った私が馬鹿だった。☆☆☆☆☆  6時前に帰着し車を商店街の駐車場に入れた紺野は、まだあきらめていなかった。 「まだ早いから、もう少し良いよね?近くに高校の時の友だちが働いている店があるから、そこでゆっくりと話をしよう!」 「いえ、ごめんなさい!わたし、門限があるんで、ここで帰ります。」と七海が帰ろうとするのを、紺野は二の腕をつかんで説得を始めた。七海は逃れようもなく、引きずられるように歩いていた。そこへ、 「梅ちゃん、どうした?その男は誰?」と声を掛けてきたのは、白石冬馬(とうま)だった。その時、七海は「助かった」と思ったのは言うまでもなかった。 ☆七海☆ようやく着いたと思ったら、強引に連れて行かれそうになった。冬馬君が現れなかったら、変な所に連れ込まれていたかもしれない。その後、青ざめている私に気が付いて、彼の家である寿司屋に案内してくれた。彼には感謝の思いを伝えたくて、お正月にデートする約束をした。☆☆☆☆☆  紺野は体の大きい冬馬に圧倒され、すごすごと引き下がった。冬馬の計らいで握り寿司まで御馳走になり、七海はお礼の意味でデートの申し出を受けた。そして、今日一日の出来事を思い起こしながら、急いで家に向かった。
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