第一章 飛べない鳥たちは籠の中でさえずる ~親友~

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第一章 飛べない鳥たちは籠の中でさえずる ~親友~

  三  井ノ頭が帰ったあと、りんは彩愛にLIMEでメッセージを送った。  LIMEとは若者に人気のあるスマホアプリで、メッセージのやりとりや通話を無料で行える便利なものだ。メッセージをイラストで表現した「スタンプ」という機能がついており、これだけでお互いの用事を済ませることも可能である。現在は仕事で使用する人も増え、幅広い年齢層から支持されていた。  りんが「結婚することになった」と入力し送信ボタンを押す。すぐに「既読」というマークがつき、彩愛の吹き出しには「誰と?」というメッセージが浮き出た。 「鈴谷司という人で、年齢は四つ上。東京に住んでたんだけど、こっちへくることになって」 「それってまさかあの一ノ瀬司? なんかいわくありげじゃない? おめでとう、って言っていいの?」 「ごめん、実はいわくつきなんだ。話せるようになったらちゃんと説明するから」  ここまで送ると、彩愛の吹き出しに「りょ(了解)」というスタンプが踊った。このスタンプは二人の間では「この話はこれで終わり」という意味を併せ持つ。  りんはスマホを置いて、自分の髪の毛を切るためのハサミを机の引き出しから取り上げた。ハナの元へきたばかりの頃を思い出す。ほとんど家に引きこもっていたりんは、美容室へ行かずに自分で髪を切っていた。手の届かないところはハナに任せ、鏡を見ながらハサミを動かすだけでいい。誰にも会う必要がなく、美容室代もかからない、まさに一石二鳥だった。  キッチンへ向かい、壁に取りつけられた鏡の下に新聞紙を広げた。今日は景気が良くなったという話題が一面を飾っている。その上に立ち、散髪用のケープをかぶった。ヘアミストで毛先を濡らし、コームで軽く梳かす。  ハサミは次々とりんの髪の毛を落としていく。  今現在、りんの髪は背中の真ん中辺りまで伸びていた。しかし特にためらいはなく、もったいないとも思わなかった。  司がりんを女性として意識することだけは、なんとしても避けなければならない。そんなことになれば、司の人生に無駄な時間が追加されてしまう。どう考えてもその可能性はゼロだが、一緒にくらす以上、最悪の場合も想定するべきだろう。  次に良くないのは、りんが司を好きになってしまうというパターンだ。こちらのほうが可能性はずっとずっと高い。そのときはとにかく自分の気持ちを封印するしかないだろう。 「何してるんだい、りん」 「ハナさん、後ろ切ってもらっていいかな?」 「美容室はどうしたのさ」 「明日に間に合わないから」 「まさか司のために?」 「一応だよ、一応。保険的な意味でね」 「そうかい? 上手くいくといいけどねえ」
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